【はじめに:LIFRELL Techが目撃した「社会実装」の極致】
「AIやXRは、単なるトレンドで終わるのか、それとも社会を救う武器になるのか」。 我々LIFRELL Tech編集部が、2026年1月8日、東京ビッグサイトの光のステージで目撃したのは、後者の圧倒的な現実だった。
東京都が主催する「Tokyo Social Innovation Tech Award 2025」は、都内中小企業の先端技術を、都が抱える社会課題(防災、インフラ老朽化、人手不足、医療・健康等)の解決へと繋げるための壮大なプロジェクトである。137件もの応募から選ばれた11社は、まさに「実戦」の最前線に立つ精鋭たちだ。

本レポートでは、大賞・優秀賞3社による魂のプレゼンテーションを可能な限り詳細に書き起こし、奨励賞を含む全11社の革新的なビジネスモデルを網羅的に記録する。これは、2026年の東京をアップデートする技術者たちの「宣戦布告」の全記録である。

■【大賞】TXPメディカル株式会社:医療データで「救急搬送の空白」を埋める
ソリューション:生成AIを活用した救急医療情報システム「NSER mobile」
登壇者:大西 雄 氏

【解決を目指す社会課題:救急現場の「情報のバケツリレー」】
救急搬送の現場は、まさに戦場である。しかし、その裏側は驚くほどアナログだ。救急隊員は現場で紙のメモを取り、病院へ電話をかけ、4〜5分かけて状況を「口頭プレゼン」する。さらに病院内では、看護師から事務、そして医師へと「情報のバケツリレー」が発生し、搬送先が決まるまで15分、長ければ30分もの待機を強いられる。この「ミスマッチ」が、都民の命を危険にさらしている。

【革新のメカニズム:話すだけで構造化されるAIデータ】
TXPメディカルが開発した「NSER mobile」は、このプロセスを劇的に変える。
- 生成AI音声入力とOCR: 救急隊員がiPadに向かって症病者の情報を「喋るだけ」、あるいは負傷部位を「撮るだけ」で、データは瞬時に構造化される。
- リアルタイム共有: 構造化されたデータと画像は、即座に受け入れ先の医療機関へシェアされる。
- 圧倒的な効率化: これまで4分かかっていた口頭説明は、わずか数十秒に短縮。医師は画像を見て即座に判断できるため、待機時間は消滅する。

【アピールポイントと今後の展望】
すでに3次救急(ハイボリュームセンター)でのシェアは50%を超え、全国80病院以上に導入されている。
「東京都で大賞をいただいたからには、まだ導入できていない東京消防庁での実装を強く目指します。都民1,400万人の命を救うDXを、我々が完遂させます」
■【優秀賞】フジテコム株式会社:地下に眠る「1km=1億円」の危機をAIが監視する
ソリューション:IoT遠隔漏水監視システム「リークネックセルラー(LNLC)」
登壇者:森山 新 氏

【解決を目指す社会課題:水道インフラの老朽化と人手不足】
日本の水道管路は、高度成長期に埋設されたものの多くが法定耐用年数を超えている。その総延長は約17万km。しかし、管の更新(取り替え)には1kmあたり平均1億円という莫大な費用が必要だ。一方で、これを見守る水道局の職員数は37%も減少しており、人力による監視は限界に達している。

【革新のメカニズム:ベテランの「耳」をAI化】
フジテコムは、60年以上にわたり培った漏水調査の技術をデジタルに移植した。
- IoTセンサーによる24時間監視: 水道管の仕切り弁に高感度振動センサーを設置し、毎日データをサーバーへ送信する。
- AI判定アルゴリズム: 収集された「漏水特有の振動」をAIが解析。雨などの外部ノイズを排し、93%という極めて高い精度で漏水箇所を特定する。
- LINE連携による即時アクション: 漏水を検知すると、担当者のLINEグループへ通知。専用アプリで位置を特定し、即座に修繕へと繋げる。
【実績と信頼】
すでに100以上の事業体に導入され、4,000台以上が稼働。前年比200%のスピードで普及が進んでいる。
「突発的な漏水で都民の生活を止めない。持続可能な水道インフラを、技術で守り抜きます」
■【優秀賞】株式会社ライフスケープス:BMIで「治らない麻痺」を再学習で克服
ソリューション:脳活動に基づくリハビリテーション医療機器「医療用BMI」
登壇者:広瀬 陽太郎 氏

【解決を目指す社会課題:脳卒中後の重度運動麻痺】
脳卒中は「4人に1人」が一生のうちに発症する身近な疾患だ。発症者の約3分の1が運動麻痺に悩み、特に「最重度の麻痺」は、既存の医療では「治らない」と宣告され、多くの患者が仕事や生活の再建を諦めてきた。

【革新のメカニズム:脳とロボットの再接続】
慶應義塾大学発の技術を用いた「医療用BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」は、脳の可塑性(再学習能力)を引き出す。
- 意図の読み取り: 患者が「手を動かそう」とイメージした際の微弱な脳波をヘッドセットで計測し、タブレットで解析する。
- ロボットと電気刺激のシンクロ: 正しくイメージできていると判断された瞬間に、手に装着したロボットが指を動かし、筋肉へ電気刺激を与える。
- 脳の再学習: これを反復することで脳が「動かし方」を思い出し、最終的にはデバイスなしで手が動かせるようになることを目指す。
【驚異の実績】
箸を使って食べる、物を掴むといった日常生活動作の獲得実績が多数報告されている。
「150以上の病院、延べ1,000名以上の患者様にご活用いただいています。現在は在宅でもこの治療を受けられるデバイスの開発を進め、誰もが諦めなくてよい社会を実現します」
■【技術特別賞】既存の常識を覆す、尖ったテクノロジーの担い手2社
1. 株式会社想画(Soga)

- ソリューション名: 駐車場巡回支援システム「MEGURU」
- 解決する課題: 大規模駐車場の警備・管理業務における属人化と人手不足。
- 革新性: AIカメラが走行中にナンバープレートを自動読み取り。画像認識技術により、不審車両の検知や空き状況の確認を高速化。駐車場管理だけでなく、物流や工場の動作チェックにも転用可能な「熟練の目」をAIで提供する。
2. 株式会社テンクー(Tenku)

- ソリューション名: 「Chrovis」アノテーションサービス
- 解決する課題: がんゲノム医療における、膨大な医学文献の解析負担。
- 革新性: 個々の患者の遺伝子変異に基づき、最適な治療法や臨床試験情報をAIが網羅的に検索・提示。医師の判断を強力に支援し、最短で最適な「精密医療(プレシジョン・メディシン)」の提供を可能にする。
■【奨励賞】現場に刺さるソリューションを届ける6社の精鋭
1. アップサイド合同会社(Upside)

- ソリューション: 海のGIS「SeaUp® +」
- 解決する課題: ブラックボックス化している海中の環境情報と水産資源の把握。
- 内容: デジタルツイン技術を活用し、海中の環境や資源量を地図上で可視化。漁業の効率化や海洋資源の持続可能な管理をデータで支える。
2. CalTa株式会社

- ソリューション: デジタルツインプラットフォーム「TRANCITY」
- 解決する課題: 専門知識を要する高コストな3Dデータ制作。
- 内容: スマホやドローンで撮影した「動画」から、3Dモデルと地図を自動生成。インフラの維持管理や建設現場において、誰でも低コストにデジタルツインを構築・管理できる環境を実現する。
3. Green AI株式会社

- ソリューション: 脱炭素と経済性を両立する自動策定システム
- 解決する課題: 企業のCO2排出削減における、コスト増と実行精度の両立。
- 内容: 物流網やエネルギー使用状況をAIが解析し、最小のコストで最大の削減効果を生む計画を自動策定。物流業界のグリーン化を加速させる。
4. 株式会社シルバーコンパス

- ソリューション: 介護テクノロジー「おはなしテレビ」
- 解決する課題: 独居高齢者の孤独死と認知症の進行、介護現場のマンパワー不足。
- 内容: 脳活性支援・健康サポートを同時に叶える対話型テクノロジー。高齢者の「脳を動かす」対話を提供し、QoL(生活の質)の維持と介護者の負担軽減を両立する。
5. 株式会社ゼスト

- ソリューション: 訪問スケジュール最適化SaaS「ZEST」
- 解決する課題: 在宅医療・介護における、非効率なルート作成と移動時間。
- 内容: 医療・介護従事者の訪問ルートをAIが数秒で最適化。移動の無駄を徹底的に排除し、ケアを届ける件数を最大化することで、従事者の収支改善と労働環境の向上を支援する。
6. ビットパーク株式会社

- ソリューション: 避難施設の迅速な開設を支援する「COCO BOX」
- 解決する課題: 災害時、管理者が駆けつけられないことによる避難所の解錠遅延。
- 内容: 地震検知による自動解錠や、役所からのリモート操作が可能なIoT解錠システム。能登半島地震でも、発災当日に2,830人の命の安全を確保した実績を持つ。
【審査委員会総評:坂本 氏(日経クロステック)】
「2025年は生成AIが民主化され、あらゆる現場で活用が進みました。しかし、少子高齢化やインフラ老朽化といった本質的な課題は、技術だけでは解決できません。 本日受賞した11社は、優れた『技術力』に、現場に寄り添う『発想力』を掛け合わせ、目に見える変化を社会にもたらしています。トレンドの第一線に立ち、東京を、そして日本を強くする原動力になっていただくことを期待しています」。
【編集後記】
今回の「Tokyo Social Innovation Tech Award 2025」を通じて、我々が確信したのは**「テクノロジーの純度は、解決する痛みの深さに比例する」**という一点だ。
机上の空論ではなく、救急現場、地下の水道管、麻痺と戦うリハビリ室、そして避難所の鍵。これら極めて「物理的」で「切実」な現場に対し、AIやIoTというデジタル技術をいかに『溶け込ませるか』。そこにこそ、2026年現在のDXの正解がある。
東京都という強力なパートナーを得たこれら11社のソリューションが、日本の、そして世界のOSをアップデートしていく日は近い。我々LIFRELL Techも、彼らの挑戦を追い続け、その知見を読者に還元し続けたい(執筆:LIFRELL Tech編集部)

