
まとめ資料
https://lifrell-tech.com/wp-content/uploads/2026/01/Global_Risks_2026_The_Age_of_Competition-1.pdf
序章|このレポートは、未来を予測するためのものではない
World Economic Forum(WEF)が毎年発表する Global Risks Report は、しばしば「世界の不安を並べた年次レポート」と誤解される。しかし、2026年版を最初から最後まで通読すると、その理解がいかに浅いかがすぐに分かる。
このレポートは、未来を当てるためのものではない。
ましてや「怖い話」を集めたカタログでもない。
これは、世界のリーダーたちが“すでに何を前提に意思決定しているか”を可視化した文書である。
各国政府、中央銀行、多国籍企業、金融機関、軍、テック企業。
彼らは「楽観的なシナリオ」を基準に動いていない。
むしろ逆だ。
最悪ではないが、十分に悪い世界
しかも、それが長期間続く世界
2026年版 Global Risks Report が描いているのは、そうした「中途半端に悪い現実」が常態化した世界である。
なぜ2026年版は、これまでと決定的に違うのか
過去のGlobal Risks Reportと比べたとき、2026年版には明確な断絶がある。
それは、リスクを「個別の問題」として扱う前提を、WEF自身が放棄している点だ。
これまでのレポートでは、
- 気候変動は環境問題
- 地政学は政治問題
- 経済はマクロの問題
- テクノロジーはイノベーションの話
と、暗黙のうちに分けて語られてきた。
しかし2026年版では、ほぼすべての章で、同じ結論に行き着く。
「リスクは単独では存在しない」
ひとつの出来事が、
別のリスクを呼び、
さらに別の危機を増幅させ、
誰も制御できない状態に雪だるま式に膨らんでいく。
この「連鎖性」こそが、2026年版の中核テーマであり、
副題である “The Age of Competition(競争の時代)” の真意でもある。
第1章|Global Risks Reportは「思想装置」である
リスクとは何か──WEFの定義を誤解してはいけない
まず最初に押さえるべきは、WEFが使う「リスク」という言葉の意味だ。
このレポートにおけるリスクは、
- 起こるかどうか分からない事件
- 突発的な事故
ではない。
「起こりうる可能性があり、起きた場合に社会・経済・政治に大きな損害を与える構造」
それがWEFの言うリスクである。
つまり、リスクとは「出来事」ではなく、構造そのものだ。
なぜ“確率×影響”だけでは足りないのか
Global Risks Report 2026では、従来の
「発生確率 × 影響度」
という二軸評価に加え、もう一つの軸が強調されている。
それが 連鎖性(Interconnectedness) だ。
たとえば、
- 地政学的対立
→ エネルギー供給不安
→ インフレ
→ 社会不安
→ 政治の不安定化
この一連の流れは、もはや例外ではない。
WEFが警告しているのは、
単体では管理可能なリスクが、連鎖によって管理不能になる現象である。
2つの時間軸が示す、世界の「逃げ場のなさ」
レポートではリスクを、
- 短期(今後2年)
- 長期(今後10年)
の2つの時間軸で評価している。
ここで重要なのは、
短期と長期で“顔ぶれ”がほとんど変わらないという事実だ。
通常であれば、
- 短期:戦争・金融危機
- 長期:気候・人口・技術
と分かれるはずだが、2026年版ではそれが崩れている。
短期も長期も、
「不安定さそのもの」が支配的なのだ。
第2章|短期リスク(今後2年):世界はすでに不安定化している
2026年の世界は「崖っぷち」にある
レポート冒頭で使われている表現は非常に強い。
The world in 2026: on a precipice
これは誇張ではない。
専門家調査では、今後2年の世界情勢について、
- 「安定している」と答えた割合は少数派
- 「不安定」「嵐のようだ」と答えた人が過半数
という結果が出ている。
つまり、世界はすでに“危機の入口”にいるという認識が共有されている。
短期リスク1位:地経済的対立という新しい戦争
2026年版で最も注目すべき変化は、
「地経済的対立(Geoeconomic confrontation)」が短期リスクの1位になったことだ。
これは非常に重要な意味を持つ。
地経済的対立とは、
- 関税
- 制裁
- 輸出規制
- 技術ブロック
- サプライチェーン遮断
といった、経済手段による対立を指す。
もはや戦争は、
「兵士が撃ち合うもの」だけではない。
経済そのものが戦場になっている。
なぜ企業は「政治リスク」から逃げられなくなったのか
この変化は、企業経営に直撃する。
これまで多くの企業は、
- 地政学は政府の仕事
- 企業は経済合理性で動けばよい
という前提で成り立っていた。
しかし現在は、
- どの国で生産するか
- どの国に技術を移転するか
- どの市場に依存するか
すべてが 政治判断と不可分になっている。
WEFが警告しているのは、
「非政治的な企業」という幻想が完全に終わったという現実だ。
第2章(後半)|短期リスクは「事件」ではなく「連鎖の引き金」である
武力衝突は「拡大」ではなく「常態化」している
2026年版レポートが示すもう一つの重要な認識は、
武力衝突そのものが特異なイベントではなくなったという点だ。
かつての国際秩序では、
- 戦争=例外
- 平和=通常状態
という前提があった。
しかし現在は逆である。
- 小規模衝突
- 代理戦争
- 国境を越えた攻撃
- 非国家主体の軍事行動
これらが 恒常的に同時発生している状態 が続いている。
WEFはこれを「拡大する戦争」ではなく、
**「分散し、収束しない戦争状態」**と捉えている。
マクロ経済リスク:問題は「不況」ではない
短期リスクとして常に上位に来る「マクロ経済の不安定化」も、
2026年版では語り口が変わっている。
焦点は、
「景気が悪くなるかどうか」ではない。
問題は、
- 高金利が常態化
- インフレと成長鈍化の併存
- 財政余力の枯渇
という “逃げ道のなさ” にある。
金融危機が起きたとしても、
- 大規模金融緩和はもう使えない
- 財政出動も政治的制約が大きい
つまり、従来の危機対応ツールが機能しない可能性が示唆されている。
サイバーリスクは「技術問題」ではない
サイバー攻撃、データ漏洩、インフラ破壊。
これらはもはやIT部門の課題ではない。
WEFは明確に指摘している。
サイバーリスクは、国家安全保障・経済安定・社会秩序の問題である
特に懸念されているのが、
- 医療
- エネルギー
- 金融
- 選挙インフラ
といった 社会基盤そのもの が攻撃対象になる点だ。
デジタル化が進んだ社会ほど、
物理的破壊よりも“見えない破壊”に弱くなる。
第3章|長期リスク(10年):取り返しがつかない世界への入口
長期リスクの本質は「不可逆性」
10年スパンでのリスク評価において、
WEFが最も重視しているキーワードは 不可逆性(Irreversibility) である。
一度起きたら、
- 元に戻せない
- 修復コストが極端に高い
- 世代を超えて影響が残る
こうしたリスクが、長期では支配的になる。
気候変動は「環境問題」では終わらない
気候変動は、もはや説明不要なリスクだが、
2026年版では明確に次の段階へ進んでいる。
焦点は、
- 気温上昇そのもの
- 異常気象
ではない。
問題は、
- 食料安全保障
- 水資源
- 移民・難民
- 国家間緊張
を同時に引き起こす システム破壊要因 である点だ。
気候は、
単独で人類を滅ぼすのではなく、他のリスクを加速させる触媒として描かれている。
生物多様性の崩壊という「静かな危機」
意外に見過ごされがちだが、
レポートでは生物多様性の損失が極めて深刻に扱われている。
理由は単純だ。
- 生態系は人類の「基盤インフラ」
- 食料、医薬、気候調整の土台
それが崩れれば、
どれだけ技術が進んでも意味がない。
WEFはここで、
テクノロジー万能論への静かな反論を行っている。
第4章|テクノロジーとAI:最大の希望であり、最大の不確定要素
AIは「リスクそのもの」ではない
誤解してはいけない点がある。
WEFは、AIを単純な脅威としては扱っていない。
むしろ、
- 生産性向上
- 医療
- 気候対策
- 災害予測
など、多くのリスクを緩和しうる存在として認めている。
しかし同時に、
制御不能な速度で社会構造を変える存在であることも強調している。
最大の問題は「誤情報 × AI」
AI単体よりも、
AIと誤情報(Disinformation)の結合が最大の脅威とされている。
理由は明確だ。
- 誤情報が
- 低コストで
- 高品質で
- 大量に
生成・拡散される世界では、
- 民主主義
- 科学的合意
- 社会的信頼
が根底から揺らぐ。
WEFはここで、
「事実が通用しない社会」 という最悪のシナリオを暗示している。
AIガバナンスの遅れがもたらす分断
技術は国境を越えるが、
ルールは越えない。
このギャップが、
- 規制競争
- 技術ブロック化
- 国家間格差
を生み出す。
AIは協調すれば恩恵を最大化できるが、
競争すれば リスクを輸出し合う道具にもなる。
第5章|分断と統治不能:最も深刻で、最も扱いにくいリスク
社会の分断は「感情の問題」ではない
2026年版で繰り返し登場するのが 社会的分断(Societal polarization) だ。
これは、
- 意見の違い
- 政治的対立
といった表層の話ではない。
- 誰を信じるか
- 何を事実とみなすか
- 誰のルールに従うか
という 社会の前提そのものが共有されなくなる現象である。
統治能力の低下という静かな崩壊
分断が進むと、
政府は「決められなくなる」。
- 合意形成ができない
- 改革が進まない
- 危機対応が遅れる
結果として、
危機 → 政府不信 → さらに危機
という負のループに陥る。
WEFが恐れているのは、
権威主義か、無政府状態か
という二択に追い込まれる未来だ。
中間まとめ|このレポートが描く世界像
ここまでを整理すると、
Global Risks Report 2026 が描いている世界はこうだ。
- 危機は同時多発し
- 相互に増幅し
- しかも長期化する
- 従来の解決手段は効かない
- 技術は希望でもあり、火種でもある
- 社会は分断され、統治は難しくなる
これは終末論ではない。
「楽観できないが、行動次第で最悪は避けられる世界」
それがWEFの立ち位置だ。
第6章|企業は「効率化マシン」であることをやめられるか
もはや企業は「外部環境の受益者」ではない
Global Risks Report 2026を企業視点で読むと、
WEFが極めてはっきり示している前提がある。
企業はもはや「安定した外部環境の上で最適化を行う存在」ではない。
- 市場は分断され
- ルールは揺らぎ
- 技術は急激に進み
- 政治が経済を侵食する
この環境下で、
「効率化」「コスト削減」「既存事業の延命」だけに集中する企業は、
短期的には安全でも、中期的に最も脆弱になる。
WEFはここで、企業を二つに分類している。
「慎重な企業」と「動的な企業」
レポート全体を通じて繰り返し現れる対比が、
- Cautious firms(慎重な企業)
- Dynamic firms(動的な企業)
である。
慎重な企業は、
- 不確実性を理由に投資を先送り
- コア事業に固執
- 規模縮小や防衛策を優先
一方、動的な企業は、
- 不確実性を前提として受け入れ
- 事業ポートフォリオを組み替え
- 技術・人材・パートナーに再投資
する。
重要なのは、
WEFは後者を「無謀」とは一切評価していない点だ。
むしろ、
不確実性の中でも再定義を続ける企業だけが、
次の秩序で生き残る
という明確なメッセージが込められている。
AIは「効率化ツール」ではなく「組織設計の再定義装置」
企業がAIを導入する際、
最も陥りやすい誤解がある。
それは、
AI=業務効率化ツール
という発想だ。
WEFは、この見方を明確に退けている。
AIの本質的インパクトは、
- 意思決定の速度
- 組織階層の意味
- 人間の役割定義
を根底から変える点にある。
つまり、
- 部門構造
- 評価制度
- 権限分配
を変えずにAIだけを導入しても、
競争力は生まれない。
人材リスク:足りないのは「スキル」ではない
多くの企業が口にするのは、
- AI人材が足りない
- デジタル人材が不足している
という言葉だ。
しかし、WEFの分析は一段深い。
問題は「人がいない」ことではない。
組織が人を活かせない構造のままであることだ。
- 失敗を許容しない評価制度
- 短期成果偏重
- 部門間の壁
これらがある限り、
高度人材を採用しても意味はない。
第7章|国家と国際協調:誰もが必要だと知っているが、誰もできない
協調は「理想論」ではなく「コスト削減策」である
Global Risks Report 2026で最も皮肉なのは、
国際協調の必要性が史上最高レベルで共有されているにもかかわらず、
実現可能性が史上最低レベルに近い点だ。
- 地政学的対立
- 国内政治の分断
- 不信の連鎖
これらが協調を阻む。
しかしWEFは、
協調を「道徳的に正しいからやるべきだ」とは語らない。
むしろこう位置づける。
協調は、リスク対応コストを下げるための現実的手段である
国家主権 vs グローバル課題という偽の対立
AI、気候、パンデミック、金融。
どれも国境を越える問題だ。
しかし対応は各国バラバラ。
WEFはここで、
「主権か協調か」という二項対立自体が誤っていると示唆する。
協調しなければ、
- 各国が同じリスク対応を重複実施
- コスト増
- 効果は限定的
結果として、
主権すら守れなくなる。
ルールなき競争が最も危険な理由
最も危険なのは、
- 協調もない
- 明確な競争ルールもない
状態だ。
AIや技術分野でこれが起きると、
- 安全基準が切り下げられ
- リスクが外部化され
- 最も無責任な行為が報われる
という逆インセンティブが生まれる。
WEFが恐れているのは、
悪意よりも、無秩序である。
終章|このレポートが本当に突きつけている問い
Global Risks Report 2026は、
「答え」を与えるレポートではない。
それが突きつけているのは、
問いの更新である。
- 安定は前提にできるのか
- 成長は何を意味するのか
- 技術は誰のためのものか
- 統治はどこまで可能なのか
そして最も重要な問いは、これだ。
不確実性を理由に、変わらないことは許されるのか
WEFの結論は、はっきりしている。
不確実性そのものが最大のリスクなのではない。
不確実性を前に、思考と行動を止めることが最大のリスクなのだ。
LIFTECH的まとめ|このレポートをどう読むべきか
- これは「怖い未来」の予言書ではない
- これは「意思決定者の共通認識」を記録した文書である
- 企業も個人も、すでにこの前提の世界で競争している
読後に残るべき感情は、恐怖ではない。
「再定義を急げ」という、静かで重い警告である。

