【AWAバンコク現地・完全統合版】年商10億の壁を突破する「E-Com 2.0」の正体。CPA高騰を無視する”物流と信頼”の全設計図

バンコクの熱気は、会場の温度だけではありません。ここ「Affiliate World Asia (AWA)」には、世界中から「本物のプレイヤー」が集結しています。

私が今回、最も衝撃を受け、そして日本のD2C・通販業界に持ち帰らねばならないと確信したセッションがあります。それが、Dayu Yang氏(EcommOps CEO)による**「Turning a 7 figure skincare funnel into a scalable 8+ figure business(年商数億のファネルを、いかにして持続可能な年商数十億ビジネスへ変貌させたか)」**です。

彼は単なるマーケターではありません。Wharton(ウォートン・スクール)でMBAを取得し、あのBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)で戦略コンサルタントを務めた、「ビジネス構築のプロ」です。現在、彼はEcommOpsのCEOとして、中国・深センを拠点に累計5億ドル(約750億円)以上の流通総額、2,000万個以上の出荷を支えるサプライチェーンを動かしています。

なぜ、あなたのブランドは年商3億〜5億円で停滞するのか? なぜ、広告費を増やせば増やすほど、利益率は悪化し、組織は疲弊するのか?

Dayu氏は、その原因が「広告クリエイティブ」にあるのではなく、**「ビジネスモデルの構造(Structure)」**にあると断言しました。

本レポートでは、彼が公開した30枚以上の生々しいスライドデータを基に、その戦略の全貌を徹底解剖します。これはテクニック論ではなく、**「経営の設計図」**です。


目次

第1章:【Structure】「7桁の成功」が「8桁の地獄」を招く理由

まず、我々が直視すべき「不都合な真実」から始めましょう。Dayu氏は、多くのD2C創業者が陥る「成功の罠」を残酷なまでにシンプルに比較しました。

1. 「7-Figure Funnel(年商数億円モデル)」の脆さ

多くのスタートアップや単品通販企業は、以下のような軽量な構造で初期の成功を収めます。

  • Supply(供給):1社のドロップシッピング業者(またはOEM先)。
  • Platform(基盤):シンプルなShopifyストア(LP特化型)。
  • Team(組織):創業者 + 少数のVA(バーチャル・アシスタント)。

このモデルの強みは「身軽さ」です。スライドにある通り、アイコンが少なくシンプルです。広告が当たれば、一夜にして売上が跳ね上がります。在庫リスクも最小限。 しかし、Dayu氏は警鐘を鳴らします。「A 7-figure funnel doesn’t require much to operate(7桁のファネルは運用に多くを必要としないが、それ故に脆い)」

広告クリエイティブがパクられた瞬間、あるいはプラットフォーム(MetaやTikTok)のアルゴリズムが変わった瞬間、このビジネスは崩壊します。なぜなら、「資産(Asset)」がなく、「フロー(Flow)」に依存しているだけだからです。

2. 「8-Figure Business(年商数十億円モデル)」への進化

対して、彼が提唱する「スケーラブルな8桁ビジネス」の構造は全く異なります。スライドの中央にある複雑なネットワーク図を見てください。

  • Multiple Factories(複数の生産拠点): 1つの工場に依存せず、リスクを分散させる。万が一の稼働停止や品質問題に備え、サプライチェーンを多重化しています。
  • Multiple 3PLs(複数の物流拠点): 中国、アメリカ、東南アジアなど、主要マーケットごとに倉庫を配置。「配送スピード」こそが最大のCVR改善施策だからです。
  • Optimized Platform(最適化されたプラットフォーム): 単なる「刈り取り型LP」ではなく、ブランドの世界観、レビュー、FAQ、クロスセル機能を備えた「巨大な受け皿」としてのストアフロント。

Dayu氏は言います。「A sustainable 8+ figure business requires much more(持続可能な8桁ビジネスは、はるかに多くの要素を必要とする)」。 この複雑性こそが、競合他社に対する最大の「参入障壁(Moat)」となります。


第2章:【Angle Strategy】「翻訳」はするな。「コンプレックス」を移植せよ

次に、具体的なマーケティング戦略の話に移ります。彼らが扱った商材は、タイのインフルエンサー「Pasnita」が開発した**「ターメリック(ウコン)配合のボディスクラブ」**です。

タイ国内では、この商品は**「Whitening(美白)」**を訴求軸として爆発的に売れていました。アジア圏特有の「白い肌=美しい」という美意識にマッチしたからです。 実際、タイ国内のSNSやShopeeでの検索結果を見ると、圧倒的なブランド力を持っていたことがわかります。

しかし、これを世界最難関の市場である「アメリカ」に持ち込む際、彼らは大きな壁にぶつかりました。

1. 人口統計(Demographics)の罠

スライドを見てください。 左側には「中年のタイ人女性」、右側には「高齢のアメリカ人女性」の写真があります。 一見、年齢も人種も住む場所も全く異なるこの2人。普通に考えれば、ターゲット設定は別物になります。

しかし、Dayu氏は問いかけました。 「Don’t just consider demographics. What do these two types of customers have in common?(デモグラだけで考えるな。この2人の顧客の共通点は何か?)」

2. 「Melanin(メラニン)」という共通言語

アメリカ市場において、「Whitening(美白)」という訴求は機能しません。それどころか、人種的なセンシティブさに触れるリスクがあり、多くの白人層はむしろ「ヘルシーな日焼け肌」を好みます。

そこで彼らが導き出した答えが、**「Melanin Production(メラニン生成の抑制)」という機能的価値の”再解釈”**でした。

  • タイ市場のインサイト
    • 悩み:地黒、日焼け
    • ゴール:白くなりたい
    • Angle:Whitening(美白)
  • アメリカ市場のインサイト
    • 悩み:加齢によるシミ(Age spots)、日焼けによる色ムラ(Freckles)、傷跡
    • ゴール:均一な肌色になりたい
    • Angle:Dark Spots / Even Skin Tone(シミ消し・トーン改善)

商品は全く同じです。成分も変えていません。変えたのは**「どの痛みに寄り添うか(Angle)」**だけです。 スライドにある「Test angles / messaging」のプロセス は、まさにこのPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を探るための執念の作業でした。

【LIFRELL佐藤の深読み】 日本企業が海外進出する際、最も失敗するのが「直訳」です。「White」を「白」と訳すのは翻訳家の仕事ですが、「White」を「シミのない若々しい肌」と訳すのがマーケターの仕事です。 Dayu氏のチームは、アメリカの高齢女性(Boomers)が抱える「手の甲のシミ」や「デコルテの色ムラ」に対する深いコンプレックスを見抜き、そこにターメリックの効能を一点集中させました。これは日本国内でも応用できます。若者向けの「ニキビケア」を、中高年向けの「マスク荒れ対策」として売るような、**「文脈の転換」**こそが、新たな市場を切り拓きます。


第3章:【Trust & Off-Funnel】「疑い深い探偵」を味方につけるWeb構築

日本の単品通販では、「広告をクリックさせて、記事LP(Pre-sell)を読ませて、そのまま購入完了画面まで一直線に走らせる」という**「一本道ファネル」**が王道とされています。 彼らも最初はそうでした。

1. 初期ファネルの限界値

スライドの推移を見てください。

  • We started out simple(最初はシンプルに始めた)
    • FB広告(VSL)→ シンプルな決済ページ(Sales Page)
    • 結果:AOV(平均客単価)$60。
    • 問題点:悪くはないが、これ以上伸び代がない。

そこから彼らは、ファネルを「最適化」しました。

  • Optimized a ton(徹底的に最適化した)
    • VSL → 記事LP(Presells)→ ストーリーのある販売ページ → アップセル
    • 結果:AOVが$80に向上し、さらに購入後のアップセルで+$15を追加。

しかし、Dayu氏はこれでも満足しませんでした。なぜなら、「広告から離脱したユーザー」を捨てていたからです。

2. ユーザーの「検索行動」をハックする

スライドに表示されているGoogle検索バーのサジェストを見てください。

  • pasnita body scrub reviews
  • pasnita scam(Pasnita 詐欺?)
  • does pasnita work(本当に効くの?)
  • pasnita where to buy

ユーザーは広告を見た瞬間には買いません。一度離脱し、GoogleやYouTubeで「裏取り」調査を行います。彼らはまるで探偵のように疑り深いです。

初期のPasnitaには、この「受け皿」がありませんでした。 スライドの図にある通り、検索しても出てくるのは広告用のLPだけ。公式サイトらしきものはない。Amazonにも売っていない。 これでは、ユーザーは「怪しい中国の詐欺サイトかもしれない」と判断し、購入を断念します。**「Customers will question legitimacy(顧客は正当性を疑う)」**のです。

3. 「信頼のインフラ」を構築する

そこで彼らは、広告運用と並行して以下の施策を打ちました。

  • Optimized Storefront(重厚な公式サイト): 単なるLPではなく、「ブランド」として機能するShopifyサイトを作成。創業者のストーリー、成分の科学的根拠、FAQを充実させました。
  • Omni-Channel Strategy(多チャネル展開): AmazonやTikTok Shopにも意図的に出店。「どこでも買えるまともなブランド」という認知を作りました。
  • Social Proof(社会的証明): 「最初は疑っていたけど(Skeptical)、使ってみたら手のシミが消えた!」というリアルな声を、コメント欄やレビューページに大量に掲載しました。特に「Skeptical(疑っていた)」というキーワードを入れることで、同様に疑っているユーザーの共感を呼んでいます。

結果、スライドにあるように「広告ファネル外(Off-funnel)」からの流入を受け止めることに成功し、全体のCPAを引き下げることに成功しました。


第4章:【Logistics & Opportunity Cost】在庫切れは「死」である

Dayu氏が最も熱を込めて語ったのが、**「物流(Logistics)はマーケティング戦略の一部である」**という点です。

1. 世界をカバーする物流網

スライドの地図を見てください。 彼らは中国の「上海工場(Shanghai Factory)」で生産し、「深セン倉庫(Shenzhen Warehouse)」に集約。そこから、わずか2日で世界15カ国へ出荷できる体制を整えています。

  • Launch Phase(立ち上げ期)Started by shipping direct from China(中国からの直送で開始)。在庫リスクをゼロにし、テスト販売を行う。
  • Scaling Phase(拡大期): PMFが確認できた国(この場合は米国)には、現地倉庫(3PL)を活用し、配送時間を短縮する。

2. 「20万ドル(約3,000万円)」をドブに捨てた失敗

しかし、彼らも完璧ではありませんでした。スライドにある棒グラフを見てください。 右肩上がりの緑色のバー(売上)が、7月31日の時点でガクンと止まっています。

「Scaled too fast (oops)(急拡大しすぎた…やらかした)」 オーストラリア市場で売上が跳ねた際、現地の在庫が尽きました。中国から補充しようとしましたが、リードタイムの計算ミスで**40日間の在庫切れ(Out of Stock)**が発生しました。

スライドには**「~$200k worth of opportunity cost(約20万ドルの機会損失)」**とはっきり書かれています。 単に売れなかっただけでなく、広告アカウントの学習データが飛び、顧客の熱量が冷めたことによる損失です。

「バックアップとして中国からの直送ラインを持っておくべきだった」 Dayu氏のこの言葉は、越境ECを行う全てのプレイヤーへの教訓です。現地倉庫が空になっても、納期は遅れるが注文は取れる体制(中国発送への切り替え)を作っておくことが、機会損失を防ぐ唯一の命綱です。


第5章:【The Grind & Seasonality】1つの「当たり」の裏にある599回の「ハズレ」と季節性

マーケティングの成功は、魔法ではありません。泥臭い「確率論」と「季節への適応」の結果です。

1. 成功の裏側にある「死体の山」

スライドに表示された、Excelのスクリーンショット。これこそが、このセッションで最もリアルなスライドでした。

  • Scrub Ta... : ROAS 0.78
  • Scrub Ta... : ROAS 0.77
  • Scrub Ta... : ROAS 0.76

赤字のオンパレードです。Dayu氏は言いました。 「But it was not easy… there were 5-10x of these(簡単ではなかった。1つの成功の裏には5〜10倍の失敗があった)」

彼らは合計で数百通りのバリエーション(クリエイティブ×コピー×ターゲット)をテストしました。その大半は失敗です。 しかし、その中から見つけ出した「勝ち筋」だけを残し、スケールさせました。「To date, total variations were tested(今日までに膨大なバリエーションがテストされた)」

2. 「季節」と戦うな、波に乗れ

そして、もう一つ重要なデータがあります。「Avg. CPA per Season(季節ごとの平均CPA)」のグラフです。

  • Spring / Summer:CPA $70〜$75(安い)
  • Autumn / Winter:CPA $100オーバー(高い)

ボディスクラブという商材は、肌の露出が増える春夏に売れ、秋冬は落ちます。 多くのマーケターは、秋冬に売れないのを「広告のせい」にして無駄な調整を繰り返しますが、Dayu氏は**「Fighting against strong seasonal trends will always be an uphill battle(強力な季節トレンドに逆らうのは、常に苦しい戦いになる)」**と断じています。

彼らの戦略はシンプルです。

  • 春夏:獲得(Acquisition)に全力を注ぐ。
  • 秋冬:無理に新規を追わず、LTV向上やギフト需要にシフトする。

この「引き際」を知っているかどうかが、年間の利益率を決定づけます。


第6章:【Future & LTV】製品ロードマップとLTVの錬金術

最後のセッションで、彼らは「次の一手」と「LTVの重要性」を公開しました。

1. AOVを$10上げるための新SKU

スライドにある「We plan 6+ months launching new SKUs」を見てください。 彼らは、ボディスクラブ(Exfoliate)とセットで使う**「Body Cream」**を開発しました。

  • Logical Pairing(論理的な組み合わせ): 「角質を落とす(スクラブ)」→「保湿する(クリーム)」という、スキンケアの儀式(Ritual)としての提案。
  • Impact: これにより、**Avg AOV increase of $10 with new SKU(新SKU追加でAOVが平均10ドル向上)**を実現しました。

さらに、長期的なロードマップとして**「Repair(修復)→ Body(体)→ Face(顔)→ Hydration(保湿)」**と、カテゴリーを横展開していく計画も示されています。これにより、季節ごとの売上の波を平準化する狙いがあります(例:冬は保湿クリームを売る)。

2. LTVこそが勝負の分かれ目

スライドの数字が、全ての結論です。

  • CPA: $64
  • AOV: $84
  • ROAS: 1.3

一見、ROAS 1.3はギリギリの数字に見えます。アフィリエイターなら撤退する数字です。 しかし、彼らには勝算があります。

  • Avg LTV Skincare: $176
  • Avg LTV Full Range: $687

初回でトントン(ROAS 1.3)でも、その後のLTVで**$600以上の利益を回収する。 この「時間差の利益」が見えているからこそ、CPAが高騰しても競合より高く入札し、市場を制圧できるのです。「LTV is where it really matters(LTVこそが本当に重要な場所だ)」**。

また、価格設定においても**「7-Eleven($10)」の商品と比較するのではなく、「Pasnita($40)」として独自の価値を確立**しています。工場もEstee LauderやDiorと同じトップクラスの工場を使うことで、品質(=LTV)を担保しています。


結論:LIFRELL佐藤からの「ネクスト・アクション」

Dayu Yang氏のセッションは、魔法のような即効性のあるテクニックではありませんでした。しかし、ビジネスを「資産」として積み上げるための本質的な講義でした。

スライドにある「3つのステージ」を、皆さんのビジネスに当てはめてください。

  1. Launch(立ち上げ)
    • 目的:PMFの検証。
    • 投資:最小限(Minimum NECESSARY)。
    • 物流:中国直送(Dropshipping)。
  2. Traction(トラクション)
    • 目的:財務とオペレーションの検証。
    • 投資:6桁ドル(数千万円)。
    • 物流:ハイブリッド(一部現地倉庫)。
  3. Scaling(拡大)
    • 目的:自信を持った拡大。
    • 投資:利益の再投資。
    • 物流:完全な現地倉庫網 + 複数工場。

「7桁の売上は”勢い”で作れるが、8桁のビジネスは”仕組み”で作る」

この言葉を胸に、我々も世界基準のマーケティング・オペレーションを構築していきましょう。 以上、バンコクAWA会場より、LIFRELL佐藤がお届けしました。


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