「その流行語を捨てろ(Stop the Bullshit)」―― AIバブル崩壊後の2026年、マーケターが直視すべき”騒音”と”真実”の境界線

目次

序章:2026年、私たちは「言葉のインフレ」に溺れていないか

2026年1月29日、ドイツ・ケルン。欧州屈指のパフォーマンス・マーケティング・エージェンシー「Bloofusion」が主催するカンファレンス『BLOO:CON 2026』は、会場を埋め尽くす数百人のマーケターに対し、極めて挑発的なセッションタイトルで幕を開けました。

「Stop the Bullshit(くだらないことをやめろ)」

2023年のChatGPT登場から3年。AIの進化が社会実装のフェーズに入った2026年現在、マーケティング業界はかつてないほどの「バズワード(流行語)」と「終末論」に溢れています。 「Google検索は死んだ」「すべての広告運用はAIに任せるべきだ」「メタバースがすべてを変える」「動画を作らなければ企業は死ぬ」――。

毎日飛び交うこれらの言説は、果たしてどこまでが真実で、どこからがツールベンダーやメディアが作り出した「ポジショントーク」なのでしょうか? 現場の数字とROI(投資対効果)に責任を持つマーケターにとって、この見極めこそが生死を分けます。

本セッションでは、Bloofusionが誇るSEO、SEA(検索連動型広告)、ソーシャル、アナリティクスの4人のスペシャリストが登壇。日本企業を含む世界中の企業が直面している「過剰な期待」の皮を剥ぎ取り、データに基づいた「冷徹な現実」を解剖しました。

参考資料:https://lifrell-tech.com/wp-content/uploads/2026/01/Hype_Reality_Action.pdf

登壇者紹介:Bloofusionの「四賢人」

  1. Markus Hövener (SEO):Bloofusion創設者。検索エンジンの変動を20年以上見守り続ける「SEOの番人」。
  2. Martin Röttgerding (SEA):Google広告のアルゴリズムを知り尽くしたSEA責任者。
  3. Lisa-Marie Drinkus (Social):B2BマーケティングにおけるLinkedIn活用のスペシャリスト。
  4. Maximilian Geisler (Analytics):GA4とタグマネージャーを駆使し、データレス時代の計測を支える分析官。

第1章:SEOの嘘と真実 ―― 「Googleは死んだ」という最大の誤謬

【Bullshit】「ChatGPT SearchやPerplexityがGoogleを滅ぼす」

2025年から2026年にかけて、最も声高に叫ばれたのが「検索エンジンの終焉」です。OpenAIのSearchGPT(ChatGPT Search)やPerplexityの台頭により、「ユーザーはもはや青いリンクをクリックしない」「従来のSEOは無意味になる」という言説がまことしやかに囁かれました。

【Truth】Googleは依然として「94%」を支配する巨象である

Markus Hövener氏は、この「Google死亡説」に対し、独自のクライアントデータ(ドイツ・スイス・オーストリア圏)を示して会場を静まり返らせました。

「確かにChatGPTのトラフィックは増えている。AI検索が便利であることは否定しない。しかし、我々が管理する数千のサイトデータを見ると、依然としてWebトラフィックの94%はGoogle経由だ。ChatGPTからの流入は、まだグラフ上では誤差の範囲に過ぎない」

Markus氏は、ユーザー行動の「質」の違いを指摘します。 ユーザーは「フランス革命はいつ起きた?」「美味しいパスタのレシピは?」といった**情報探索(Informational Queries)**においては、AIチャットボットを使い始めています。ここでは確かに「ゼロクリック(Webサイトに訪問せずにAIの回答だけで完結する)」現象が加速しています。

しかし、「ナイキの新作スニーカーを買いたい」「会計SaaSを導入したい」といった**購入・取引(Transactional Queries)**においては、依然としてGoogle(特にショッピングタブやGoogleマップ)が圧倒的な支配力を維持しています。ユーザーはAIの要約ではなく、「最新の価格」「在庫状況」「店舗の場所」といったリアルタイムの事実を求めているからです。

【Action】2026年のSEOは「回答」と「体験」に二極化する

日本企業が今すぐ捨てるべきは、「キーワードを記事に詰め込めば順位が上がる」という2020年代前半の古いSEO観です。AIが要約できる程度の薄い情報は、もはや検索結果において価値を持ちません。

これからのSEOは、以下の2つの方向性のみが生き残ります。

1. 対AI最適化(GEO: Generative Engine Optimization)

AI(SGEやChatGPT)が回答を生成する際に、「信頼できる情報源(ソース)」として引用されるための施策です。

  • 構造化データ(Schema.org)の徹底: 商品価格、レビュー、著者の経歴などを、AIが理解できるコードで記述する。
  • 一次情報の権威性(E-E-A-T): 「誰が言っているか」がかつてないほど重要になります。

2. 対人間最適化(Experience & Insight)

AIが「正解」を返したあと、それでもユーザーが「クリックして詳しく見たい」と思わせるコンテンツです。

  • 独自の体験談: 「実際に使ってみて失敗した話」など、AIが生成できない生々しいエピソード。
  • 専門家の偏愛: 客観的な比較ではなく、主観的な熱量がこもった推奨。

Markus氏はこう結論付けました。「Googleは死んでいない。形を変えているだけだ。AIに答えさせるためのデータ整備と、人間を感動させるためのコンテンツ制作。この両輪がない企業は、検索結果から消え去るだろう」


第2章:SEA(Google広告)の嘘と真実 ―― 「AIに全任せ」という自殺行為

【Bullshit】「P-Maxがあれば運用者は不要。ボタンを押せば売上が上がる」

GoogleのAIによる自動化プロダクト「P-Max(パフォーマンス最大化キャンペーン)」は、2026年にはさらに進化し、画像生成からコピーライティング、入札調整までを全自動で行うようになりました。これにより、「もはや広告運用の専門家は不要だ」「AIに任せておけば勝手に最適化してくれる」という幻想が広がっています。

【Truth】AIは「売上」と「利益」の区別がつかない

SEA責任者のMartin Röttgerding氏は、この「AI全能論」に強く警鐘を鳴らしました。

「P-Maxはフェラーリのエンジンだが、ハンドルはついていない。AIは『売上の最大化』は得意だが、『利益の最大化』の区別がつかないことが多々ある

Martin氏は具体的な失敗事例を挙げました。あるECサイトでP-Maxを「自動適用(Auto-Apply)」の設定で回したところ、ROAS(広告費用対効果)は見かけ上改善しました。しかし、中身を見ると、AIは「原価率が高く、利益がほとんど出ない安売り商品」ばかりを大量に販売していたのです。AIにとっては「コンバージョン数が増えた」ので成功ですが、経営にとっては「利益率の悪化」という失敗です。

議事録にある「AI Max」という言葉は、AIによる過剰な「最大化(Maximization)」への皮肉も込められています。Martin氏は「Googleが推奨する『自動適用』をすべてONにするのは、目隠しをして高速道路を走るようなものだ」と断言しました。

【Action】運用者の仕事は「入札」から「教師データの作成」へ

「管理画面に張り付いて入札単価を1円単位で調整する時代は終わった」とMartin氏は認めます。しかし、運用者の仕事がなくなったわけではありません。これからのSEA担当者の役割は、AIという「優秀だが世間知らずな部下」に、正しい教育を施す**「教師役」**にシフトします。

日本企業が導入すべき「Value-Based Bidding(価値に基づく入札)」

  • 利益データのフィードバック: 売上金額だけでなく、「粗利(Profit)」のデータをGoogle広告にインポートし、AIに「利益が出る商品を売れ」と指示する。
  • LTV(顧客生涯価値)の加味: 初回購入だけでなく、リピートしやすい優良顧客のシグナルをAIに学習させる。
  • ブランド除外と除外キーワード: AIは放っておくと、指名検索(社名など)ばかりに広告を出して「成果が出た」と報告してきます。これを防ぎ、新規獲得にリソースを向けさせるためのガードレール設定が必要です。

第3章:ソーシャルメディアの嘘と真実 ―― 「B2BにTikTokは必須」の呪い

【Bullshit】「ショート動画をやらない企業は時代遅れだ」

TikTokやYouTube Shorts、Instagram Reelsの爆発的普及により、B2B企業であっても「踊る社長」や「オフィスツアー」「社員のランチ紹介」といった動画を作らなければならないという強迫観念が蔓延しています。「動画こそが正義」「テキストは読まれない」という極論です。

【Truth】プラットフォームの「文脈」を無視したコンテンツはゴミである

ソーシャル担当のLisa-Marie Drinkus氏は、特にLinkedIn(および日本のFacebook/EightなどのビジネスSNS)における「質の重要性」を説きました。

「確かに動画は伸びている。しかし、B2Bの意思決定者は、業務時間中にスナック感覚で動画を見るかもしれないが、そこで数千万円の『契約』を決めるわけではない。重要なのは『エンタメ(Entertainment)』ではなく『信頼(Trust)』だ

Lisa氏は、無理に若者向けのトレンドに乗ろうとして「痛い」動画を量産している企業の例を挙げ、「それはブランド毀損でしかない」と切り捨てました。B2Bにおいて重要なのは、流行りの音楽に合わせて踊ることではなく、顧客の課題を解決する専門知識を提供することです。

【Action】「コーポレート・インフルエンサー」の育成

Lisa氏が推奨するのは、動画の量産ではなく、**「従業員アドボカシー(Employee Advocacy)」**の強化です。

  • 企業のロゴより「社員の顔」: 企業の公式アカウントが発信する洗練された広告よりも、現場のエンジニアや営業担当者が「自分の言葉」で語るテキスト、現場の写真、失敗談のほうが、2026年においては遥かに高いエンゲージメントと信頼を獲得しています。
  • テキスト回帰: 意外なことに、LinkedInなどでは長文のテキスト投稿(専門的な知見やオピニオン)が再び評価されています。動画を見る時間がない決裁者にとって、良質なテキストは依然として最強の情報源です。

日本企業は「動画を作ること」自体を目的にしがちです。しかし、「その動画は、誰のどんな課題を解決するのか?」という問いに答えられないなら、リソースをテキストや静止画に戻すべきです。


第4章:アナリティクスの嘘と真実 ―― 「サーバーサイド計測で全て解決」の幻想

【Bullshit】「Cookie規制もサーバーサイドGTMがあれば以前通り計測できる」

3rd Party Cookieの完全廃止や、欧州のGDPR(一般データ保護規則)、米国の各州法などのプライバシー規制強化に対し、多くのツールベンダーが「サーバーサイド計測(Server-Side GTM)を導入すれば、規制を回避して以前のように100%のデータが取れる」というセールストークを展開しています。

【Truth】データ欠損は「ニューノーマル」。100%の計測は二度と戻らない

アナリストのMaximilian Geisler氏は、この甘い幻想を打ち砕きました。

「サーバーサイド計測は確かに有効な技術だが、魔法の杖ではない。ユーザーが同意(Consent)を拒否すれば、データは取れないし、取ってはいけない。それは法律だ。我々は今後永遠に、『データが欠けた状態(Data Gaps)』で意思決定をするスキルを身につけなければならない

議事録にある「Tracking blocker(トラッキング防止機能)」への言及は、ブラウザ側(SafariのITPなど)の規制強化を指しています。もはや「実測値」だけでマーケティングの成果を測ることは不可能です。

【Action】「推計値(Modeled Data)」を受け入れる勇気

Maximilian氏は、これからのアナリティクスは「見えない部分」をAIで埋める時代になると説きます。

  • Google Consent Mode v2の完全実装: ユーザーの同意状態をシグナルとして送り、AIによるデータ補完(モデリング)を可能にする。
  • コンバージョンAPI(CAPI)の活用: ブラウザピクセルに頼らず、サーバー間通信でデータを送ることで、計測の精度を底上げする。
  • アトリビューション(貢献度)評価: 「ラストクリック(最後の広告)」だけでなく、認知から購入までの経路全体を評価するモデルへの移行。

日本企業のアナリストは、「数字が合わない」と嘆くのをやめ、「トレンド(傾向)を見る」ことに注力すべきです。


前半総括:「Bullshit」を排除し、本質に回帰せよ

セッションの最後、Bloofusionの創設者Markus氏はこう締めくくりました。

「2026年、テクノロジーは魔法のように見えるかもしれない。AIエージェント、生成AI、自動化……。しかし、ビジネスの基本は100年前から変わらない。『誰に(Who)、何を(What)、どう届けるか(How)』。AIはそのためのツールに過ぎない。流行語に踊らされず、自社の顧客がどこにいて、何を求めているかという原点に立ち返ろう」

前半のセッションは、過熱するAIブームに冷水を浴びせつつも、決して悲観的ではなく、「地に足のついたデジタルマーケティング」への回帰を促す力強いメッセージとなりました。

(続く後半記事では、否定すべき流行語ではなく、実際に取り組むべき「2026年の具体的アップデート」と「エージェント・エコノミー」に迫ります)



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