MIBS 2025 マレーシア国際ブランディングショーケース 現地レポート——全50社解析・DasLega・Guochao(国潮)・日本企業の構造的課題【クアラルンプール2025】

目次

序章——日本の「脳」vs アジアの「体」

2025年12月、クアラルンプール。「第20回マレーシア国際ブランディングショーケース(MIBS 2025)」の会場に足を踏み入れた瞬間、私はある種の「暴力」を受けた感覚を覚えました。50社が並ぶ展示ホールは、日本の展示会でよく見る「整然とした静寂」とは正反対の、怒鳴り声・香り・試食の煙・TikTokライブの配信音が混ざり合うカオスです。

しかし、そのカオスの中に私は「商売の本質」を見ました。

MIBS 2025 クアラルンプール 会場全景 マレーシア国際ブランディングショーケース 全50社

今の日本企業は、緻密な成分配分比率・特許技術・有名タレントのイメージ戦略・物流オペレーション最適化・パッケージのデザイン調整——つまり「消費者の脳内に、いかに綺麗な虚像(ブランド)を構築するか」という情報戦に終始しています。競合との差別化はナノグラム単位の成分差であり、広告費は「認知」という無形資産に消えていく。

しかしここマレーシアの現場にあるのは「飲んだ瞬間に体が熱くなるか」「その場で商談になるか」「SNSに上げたくなるか」という「物理的リアリティ(Physical Reality)」だけです。説明書きを読む前に、体が先に反応する。それが彼らのブランディングの出発点です。

本レポートでは、現地で直接取材した50社の解析から浮かび上がる「アジアのブランディング」の共通原則を詳述します。CEOがTikTokライブで直接売る「社長=最強インフルエンサー」という新常識、中国企業が「安売り」をやめてGuochao(国潮)で自国文化を武器に変えた実態、そして日本企業が今すぐ実行すべき「肉体リアリティ回帰」のアクションを、現場で見たまま、感じたままに報告します。


第1部 Health & Wellness——「エビデンス」ではなく「衝撃」を売る(全15社)

日本のヘルスケア企業は「機能性表示食品」という制度の檻の中で戦っています。「〇〇mgの△△配合」「臨床試験で確認済み」——情報の積み重ねで消費者の「頭」を説得しようとする。しかしMIBS 2025のヘルスウェルネスゾーンにあったのは、頭への説得ではなく、体への直接介入でした。

🏆 Grand Highlight:Das Abdul Global Sdn Bhd(ブランド名:DasLega)——体感型健康飲料の到達点

製品:Botanical Beverage Garlic Lemon Shot カテゴリー:健康飲料

試飲した瞬間、喉の奥から食道にかけてカッと焼けるような熱さが走りました。滞っていた血流がドクドクと音を立てて回り出すような「生命力の流入」——これは比喩ではなく、実際に体の末端まで熱が伝わっていく感覚です。思わず「これは効く」と声が出た。

成分表を見て驚愕しました。そこには難解な化学成分は一つもない。Halia(生姜)・Kunyit(ウコン)・Bawang Putih(ニンニク)・Lemon・Madu(ハチミツ)・Cuka Epal(アップルサイダービネガー)・Lada Hitam(黒胡椒)。ただそれだけです。合成保存料なし、添加物なし。7種類の天然素材が、互いの成分を引き立て合い、相乗効果を生み出しています。

日本企業ならここで何をするでしょうか。「飲みやすく味を調整」し「有効成分◯mg配合」とスペックを謳い、「臨床試験実施中」と書き、パッケージをミニマルにデザインし直すでしょう。しかしDasLegaは違います——「素材の味と刺激(辛さ・熱さ)」をそのまま残すことで、「これは効く」という物理的な確信を顧客の肉体に直接叩き込んでいるのです。説明を読む前に、体が先に証明してしまう。これが体感型マーケティングの本質です。

価格帯はシングルショット換算で日本円にして200〜400円程度。健康意識の高い都市部マレーシア人・シンガポール人・中国人観光客を主なターゲットとし、TikTokShopを通じたオンライン販売と展示会での対面販売を組み合わせたオムニチャネル戦略を取っています。

DasLega ガーリックレモンショット 体感型健康飲料 マレーシア MIBS2025
DasLega 成分表示 生姜 ウコン ニンニク 天然素材のみ

CEOのTuan Das Abdul氏が「歩く放送局」になる——彼はブースで私に声をかけ、その場でTikTokライブを始めました。「日本のゲストが来たぞ!」と数万人の視聴者に紹介し、商品を飲ませ、リアクションを配信する。私が「熱い」と顔をしかめる瞬間が、そのままコンテンツになる。

彼は「社長」であり「トップセールス」であり「インフルエンサー」です。肩書きで人を動かすのではなく、自分の熱量で人を動かす。日本の社長が会議室で稟議書にハンコを押している間に、彼は現場で汗をかき、通りがかりの外国人と肩を組み、TikTokShopで手売りしています。この「経営者の体を張った販売」こそが、DasLegaというブランドへの最大の信頼証明になっています。

DasLega CEO Tuan Das Abdul TikTokライブ 実演販売 インフルエンサー経営者
CEO自らTikTokライブ配信。「言葉はいらない——パッションとボディランゲージで商談は成立する」

02:Simpulan Emas(Need Lee)——プロポリスの直球訴求が教えること

製品:Need Lee Propolis Liquid(婆羅洲黄金蜂膠)

「糖尿病への効果」というパネルを堂々と掲示している。日本企業のマーケティング担当者が見たら卒倒しそうな表示です。薬機法・景品表示法の観点から言えば、日本国内では絶対に許されない訴求方法です。しかし、ここはマレーシアです。

重要なのは、この「直球訴求」が機能している理由です。糖尿病患者は東南アジアに急増しており、マレーシアでも成人の約18%が罹患していると言われています。彼らは「〇〇をサポート」という曖昧な表現ではなく、「自分の症状に効くのか」という切実な問いへの答えを求めています。Need Leeはその問いに正面から答えることで、説明コストゼロで顧客の心を掴む。

製品ラインナップは喉スプレー・原液・カプセルと多様で、プロポリスを「万能天然抗菌剤」として位置づけています。ボルネオ島産の原料を使用することで「産地の希少性」も訴求ポイントにしています。

Need Lee Propolis Liquid 婆羅洲黄金蜂膠 糖尿病効果訴求 マレーシア

03:BioCoLex Group(Ningxia Rongbin Biotech)——サプライチェーンの根元を押さえる中国戦略

製品:Luteolin / Nervonic Acid(神経酸)/ Dihydroquercetin

中国・寧夏(ニンシャ)からのB2B原料供給企業です。「神経酸(Nervonic Acid)」という成分をご存じでしょうか。脳の神経細胞膜の構成成分で、認知機能・記憶力・集中力への関与が研究されている高機能成分です。日本でも近年注目度が上がっていますが、その原料の多くは中国から供給されています。

BioCoLex Groupはまさにその「根元」にいます。原料抽出・標準化・品質検査・中間製品化・最終製剤まで自社で完結する一貫型サプライヤーで、マレーシア・シンガポール・タイのOEM工場へ安定供給しています。

日本のサプリメーカーが「差別化成分を探す」ために展示会を歩き回っている間に、彼らはその差別化成分の「製造工程と供給ルート」を囲い込んでいます。川上を押さえた者が市場を支配する——この原則が、サプリメント業界でも着実に進行しています。

BioCoLex Group 中国寧夏 高機能成分B2B供給 神経酸 サプライチェーン
BioCoLex Group。原料から製剤まで一貫対応——サプライチェーンの根元を押さえる戦略

04:Tongxiang Yuandong——NAD+×IPL脱毛のハイブリッドOEM戦略

製品:NAD+ Supplement / Home IPL Hair Removal Device

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、近年「長寿遺伝子サーチュインの活性化」「細胞エネルギー代謝の改善」として富裕層のアンチエイジング市場で急速に注目を集めている成分です。David Sinclair教授(ハーバード大学)がNMN・NR(NAD+前駆体)の研究を発表して以来、世界の健康意識の高い富裕層が積極的に摂取しています。

Tongxiang Yuandongはこの波を捉え、NAD+サプリメントとHome IPL脱毛デバイスというカテゴリーをまたいだ「アンチエイジング×美容」のOEM製品群を展開しています。浙江省政府の輸出支援パビリオンの一角に陣取り、ブース壁面一面に特許証(専利証書)を貼り出すことで「この製品は裏付けのある技術です」というメッセージを物理的な量で伝えています。

日本のOEMメーカーとの最大の違いは「複数カテゴリーをまたぐ製品開発力」です。成分原料の調達から最終製品の設計・パッケージングまでを一社で完結させ、バイヤーの調達コストを大幅に削減する提案ができています。

NAD+ サプリ IPL脱毛デバイス 中国ハイブリッドOEM アンチエイジング
特許証を壁一面に——「信頼性を物理的な量で示す」戦術

05〜06:Golden Face(Gray Bottle)/ Bio Health Doctor——体感即売の完成形

製品:フェムテック吸水ショーツ / 温熱療法マット・ベルト

【Gray Bottle】バレリーナのビジュアルで「動きやすさ・自由」を表現したフェムテックブランドです。”Rapid absorption”という機能的価値を「ファッション」の文脈で提案することで、「生理用品」という生活必需品をライフスタイルアイテムへと昇華させています。月経に関するタブーが比較的強い東南アジア市場において、スポーツ・ダンスというポジティブなビジュアルと組み合わせることで購買心理のハードルを下げる戦略が巧みです。

【Bio Health Doctor】このブースが会場で最も「体感販売」の本質を体現していました。遠赤外線温熱デバイスのデモを行うため、来場者をベッドに寝かせて実際に10分間体験させます。「10分だけ当ててみて」という声かけから始まり、体験後に「温かさが全然違う」と驚いた来場者がそのままクロージングに入る流れが完成されています。

高齢者の物理的な「冷え・腰痛・肩こり」という不快感を解消し、その場で「これが欲しい」という欲求を作り出す。説明パンフレットは後回しで、まず体に語らせる——これが東南アジアの体感販売の完成形です。価格帯は数万円〜十数万円と高額ですが、体験後のクロージング率は非常に高いと担当者は言っていました。

Bio Health Doctor 遠赤外線温熱デバイス 実演型ブース シニア層 体感販売
Bio Health Doctor。実演型で来場者を寝かせ体感させる——「肉体リアリティ」の典型

07:Molishidai(茉莉诗黛)——ジャスミン一点突破のSNS映えブランド設計

製品:Jasmine Skincare Masks

ブランド設計として非常に完成度が高い事例です。「ジャスミン」という一点に全リソースを集中させ、ブランドアイデンティティのブレを完全に排除しています。緑色のパッケージで統一された製品群は、棚に並んだ瞬間に「世界観」として機能します。

成分のスペックを語る前に、まず「香りの癒やし」という感情的価値を売ります。ジャスミンの香りは鎮静・リラクゼーション効果が科学的にも認められており、「天然由来・植物成分」というトレンドとも合致します。Instagram・TikTok・RED(小紅書)での映えを徹底的に計算したパッケージデザインは、消費者が自発的に撮影・投稿したくなる仕掛けになっています。

日本のスキンケアブランドが成分・浸透率・皮膚科学的データを並べる間に、Molishidaiは「ジャスミンに包まれる豊かな時間」というナラティブを売っています。どちらが購買につながるかは、SNSのエンゲージメント数を見れば明らかです。

Molishidai 茉莉诗黛 ジャスミン スキンケア ボタニカル SNS映え
Molishidai。香り・癒し・植物成分を視覚的に演出——SNS映えを意識した展示

08:Guangdong Yuwei Pharmaceutical——虎の絵が語る中医薬の輸出戦略

製品:Tiger Plaster(风湿膏)/ Pain Relief Patch

虎の絵が描かれた鎮痛パッチ。これを見た瞬間に「強そう・効きそう」という直感が働く——説明不要のビジュアルコミュニケーションです。虎は中華文化圏において「強さ・威力・百獣の王」を象徴するアイコンであり、「これを貼れば痛みに打ち勝てる」という暗示を成分説明なしに伝えます。

腰痛・関節痛・筋肉痛という物理的な痛みは、世界中で普遍的に存在するニーズです。外用貼付剤は経口摂取と異なり国際規制が比較的緩く、これが中医薬の代表的輸出カテゴリーとなっている理由の一つです。マレーシア・シンガポール・インドネシアの华人コミュニティへの浸透はすでに完成しており、今後は中東・アフリカへの展開も視野に入っています。

日本の湿布・貼付剤メーカーと競合した場合、Guangdong Yuweiは「価格」「ビジュアルインパクト」「文化的親和性(华人市場)」の三点で優位に立ちます。日本製の強みである「安全性・品質」を活かした差別化戦略が問われています。

Guangdong Yuwei 虎の鎮痛パッチ 風湿膏 中医薬輸出

09〜10:珍其道(漢方アイマスク)/ Hongshou(霊芝コーヒー)——日常習慣への中医薬の忍び込み方

【珍其道】スマートフォン社会が生み出した現代病「眼精疲労」に特化した漢方アイマスクです。ターゲット設定が秀逸で、「スマホを1日中見ている都市部の働く層」という数十億人規模の市場に対し、「漢方ハーブの蒸気で目を温める」という体感型ソリューションを提供しています。展示ブースでは実際に開封して香りを嗅がせる実演販売を実施。施術デモ・ビフォーアフター写真・加盟支援(フランチャイズ展開)を組み合わせた「中医美容パッケージ」として、製品単体ではなくビジネスモデルを売っています。

【Hongshou】霊芝(レイシ)入りコーヒーというコンセプトは、一見すると奇妙に思えます。しかしこれは「健康のために何かを始める」という行動変容コストをゼロにする天才的な発想です。毎朝飲むコーヒーに漢方成分を溶け込ませることで、「特別な健康習慣」ではなく「いつもの習慣の延長」として中医薬を日常化させます。ライオンのたてがみ(Hericium erinaceus / ヤマブシタケ)やアシュワガンダなど機能性キノコ・ハーブをコーヒーに配合する「Functional Mushroom Coffee」は北米でも急成長中のカテゴリーであり、Hongshouはそのアジア版として先行しています。

珍其道 漢方アイマスク ビフォーアフター フランチャイズ型 中医美容パッケージ
珍其道。「施術+教育+物販」の一体型モデル——製品単体ではなくビジネスモデルを売る

12:Meng Onn Medical(明安薬行)——100年の老舗が「多層ウェルネス」を再構築

製品:Wild Oud Liquid Soap / 薬膳スープセット / 沈香オイル

マレーシアで長年親しまれている中医薬店が、デジタル時代に合わせてブランドを再構築した事例です。「中医薬×薬膳×香り×ギフト」という四つの市場を一社でカバーするポートフォリオ戦略は、日本で言えば「漢方薬局が薬膳料理キット・お香・高級ギフトも売る」ようなイメージです。

特筆すべきは沈香(Oud)の使い方です。沈香は中東・东南アジアで最も高価な香木の一つで、高級香水・アロマの世界では「液体の金」とも呼ばれます。Meng Onnはこの高級素材を日用品(液体ソープ・ルームスプレー)に落とし込むことで、「日常の中のプレミアム体験」という価値を作り出しています。テーマ別薬膳スープセット(美肌・免疫・滋養強壮など)は、スーパーフードブームと中医薬の知恵を組み合わせた現代版養生食で、ギフト需要の取り込みにも成功しています。

Meng Onn Medical 明安薬行 薬膳 沈香 漢方 ウェルネス マレーシア
明安薬行。中医薬×薬膳×香り×ギフト——多層的ウェルネス市場を一手に押さえる

13〜14:Iputtra Science / Sompoton Spa Academy——「モノ」ではなく「スキル・資格」という市場

【Iputtra Science】AI灸療・伝統リハビリ等のTVET(技術職業教育訓練)資格プログラムを提供する教育機関です。高齢化と医療観光が急速に進む東南アジアで慢性的に不足しているのは「製品・デバイス」ではなく、それを使いこなせる「施術者の人材」です。Iputtraはその空白を突いています。政府認定の資格プログラムであることが強みで、修了者は医療施設・スパ・リハビリセンターへの就職を保証されます。

【Sompoton Spa Academy】サバ州の伝統スパ技法をベースにした「教育×施術×商材販売」の一体型モデルです。スパ開業者向けにプロトコル(施術手順書)を提供し、そのプロトコルで使用する自社製品を定期購入させる仕組みになっています。教育でロイヤリティを作り、製品で収益を作る——このモデルは化粧品・健康食品業界が参考にすべき収益構造です。

Iputtra Science AI灸療 伝統リハビリ TVET資格 教育機関 東南アジア

15〜16:InBody × Nestlé Enercal / KL Wellness City——計測から都市開発まで広がるウェルネス経済

【InBody × Nestlé Enercal】体成分測定機器InBodyと、Nestléの高齢者向け栄養補助食品Enercalが連携したブースです。InBodyで体組成を測定→筋肉量・骨密度・体脂肪率の数値で「不安」を可視化→Enercalを「科学的に必要な解決策」として提示するという、測定→診断→販売の完璧なコンバージョンフローが設計されています。データを突きつけられた後の「このままではまずい」という感情が、購買の最強トリガーになります。

【KL Wellness City】これはもはやブース展示ではなく、国家プロジェクトの説明会です。クアラルンプール郊外に開発中の巨大ウェルネス・タウンで、病院・リハビリ施設・高齢者ケアホーム・スパ・薬膳レストランが一体となった「健康を中心とした街」を作る構想です。「DOCTORS FOR DOCTORS」——医師自身が設計する医療都市というコンセプトは、日本の医療ツーリズム業界に対する強烈なメッセージでもあります。

KL Wellness City 医療ツーリズム ウェルネス都市開発 クアラルンプール

第2部 Tech & Industry——「未来」ではなく「道具」を売る(全13社)

日本の展示会には「コンセプトモデル」があります。「2030年には実現予定の次世代技術」というパネルの前でスーツを着た社員が説明する——そのシーン。MIBS 2025のテックゾーンにはそれが一つもありませんでした。あるのは「明日から使える実弾」だけです。

18:Aerovation(Sunway Group)——農業ドローンという「空飛ぶトラクター」の実用化

製品:Intelligent Agriculture Drone J100

マレーシア最大の財閥の一つSunway Groupとの提携による農業用ドローンメーカーです。J100は撮影用・デモ用ではなく、パームオイルプランテーション・ドリアン農園・ゴム農場で「今日から農薬散布・播種に使える」産業機械として設計されています。

マレーシアの農業が抱える最大の課題は深刻な人手不足です。特にパームオイルプランテーションは木の高さが10m以上になるため、高所作業が必要で労働コストが高い。J100はオートパイロット対応で100%散布カバレッジを実現し、1機で人手10人分以上の作業をこなします。価格帯は日本円で300〜500万円程度で、日本の農業機械メーカーとも競合するゾーンに入ってきています。

Aerovation 農業用ドローン J100 Sunway Group マレーシア パーム農園
J100農業ドローン。「コンセプト展示」ではなく、明日から農場で動く実弾だ

19〜20:Unitree(杭州宇樹科技)/ Hangzhou Teliwei——ロボット犬がコモディティ化する世界の到来

【Unitree】会場で最も「未来が来た」と感じた瞬間がここです。四足歩行ロボット(ロボット犬)が、電化製品の隣で手書きの値札を付けて無造作に展示されていました。日本ではロボットに愛称をつけて「可愛い・すごい」と騒いでいる間に、中国では工場・建設現場・巡回警備ツールとして実装が進んでいます。

Unitree Roboticsは2016年創業で、Go2・H1などのモデルが世界の研究機関・産業現場に導入済みです。価格はGo2が日本円で約70万円〜と、以前の産業用ロボットの1/10以下のコストに下がっています。「ロボット犬はコモディティになる」——この事実が意味することを、日本の製造業は真剣に考える必要があります。

【Hangzhou Teliwei】渋滞が慢性化するクアラルンプールの「ラストマイル問題」に特化した電動モビリティメーカーです。Fat Bike(太タイヤの電動自転車)を中心に、悪路・荷物積載に耐えるタフな仕様が特徴です。GrabFood・ShopeeFood等のデリバリー需要、日用品の配送需要に対応する「実需」に根ざした製品設計です。

Hangzhou Teliwei E-Bike Fat Bike Grabデリバリー 実用的電動自転車 東南アジア
「実弾」のみが会場にある。コンセプトモデルは一台も存在しない

21〜22:FCE Apparel(Okurma)/ Teioe Electric——常夏の「暑さ」をビジネスにする発想

【Okurma】年間を通じて気温35度超・湿度80%超のマレーシアで、工場・倉庫・ショッピングモールの「暑さ」は生産性と顧客体験の最大の敵です。Okurmaが販売するHVLS(High Volume Low Speed)型大型天井ファンは、直径6〜8mの巨大な羽根をゆっくり回転させることで、エアコンの4〜5倍の面積を効率的に冷却します。初期導入コストは高いですが、電気代の削減効果から3〜5年でROIが出るという試算を提示し、B2B設備投資需要を確実に取っています。

【Teioe Electric】Disney認証モデルを取得したハンディファンのOEM企業です。ディズニーキャラクターをあしらったパーソナルクーラーは、機能性だけでなく「持っていること自体が楽しい」ファッションアイテムとして展開。ターゲットは常夏のテーマパーク・アウトドアイベント・通学シーン。Zhejiang Pavilionの中核企業として、浙江省製造業の輸出競争力を体現しています。

OKURMA Super Industrial Ceiling Fan HVLS 工場向け 大型天井ファン

24〜30:HyGrow / Homesafe / Choo Kim Soon等——地味で最も必要なもの群

【HyGrow】植物由来バイオポリマーを活用した次世代型土壌水分保持材です。農業における最大コストの一つ「灌漑(水やり)」を大幅に削減しながら土壌改善も同時実現します。水不足が深刻化するASEAN農業地帯での需要は高く、ESG・サステナビリティ投資の観点からも評価が高まっています。乾燥時に数百倍の水を吸収し、必要に応じて植物の根に水を供給する仕組みは、砂漠農業から都市農業まで幅広く応用可能です。

【Homesafe / Zhejiang Baizan】現金・貴金属・重要書類を保管する家庭用・業務用金庫メーカーです。治安状況・銀行不信・現金主義が根強い東南アジア・中東市場で「金庫」への需要は日本人の想像を超えています。電子錠・指紋認証・二重ロック構造など最新セキュリティ技術を搭載しながら、価格は日本製の1/3〜1/5程度。

【Choo Kim Soon Plastic】マレーシアで60年以上続く老舗文具・プラスチックメーカーです。無料サンプルを惜しみなく配布して来場者との接点を作り、OEM対応でバイヤーを呼び込む。「派手さゼロ、実直さ100%」の展示スタイルが老舗ならではの信頼感を醸成しています。

【Yiwu Honghuang Glove】壁一面に並んだ作業用手袋——建設・製造・農業ラッシュが続くASEAN市場で最も確実に消費され続ける消耗品です。地味に見えて実は最も安定した需要があります。【Zhejiang Taierge Lighting】電力インフラが不安定な地域・停電が頻発する農村部で欠かせない照明器具メーカー。ソーラー充電対応モデルが主力で、電力インフラの未整備地域という「ニッチな市場」の巨大さを示しています。

Choo Kim Soon Plastic 文具 プラスチック製品 老舗マレーシアメーカー OEM
「最も地味で最も必要なもの」——会場の半数は日本のブランド図鑑には載らない実需商材だ

第3部 Food & Identity——「味覚」と「本能」と「見栄」を刺激する(全10社)

日本の食品マーケティングは「安心安全」「無添加」「国産原料」という守りの言語に終始しています。しかしMIBS 2025のフードゾーンで語られていたのは「欲望」「見栄」「体験」「文化的誇り」という攻めの言語でした。食べ物は栄養を摂るためではなく、感情を満たすためにある——そのことをここの企業は全員理解しています。

31〜32:Apache White Coffee / Sin Sing Coffee——猫山王ドリアン×ホワイトコーヒーという最強IP戦略

【Apache White Coffee】マレーシアが世界に誇る二大IPを合体させた商品です。「猫山王ドリアン(Musang King)」はマレーシア産ドリアンの最高級品で、中国・香港・シンガポールの富裕層が1個数千円〜数万円で購入する食材です。「ホワイトコーヒー(White Coffee)」はイポー発祥のマレーシア独自のコーヒースタイルで、現地では「マレーシアに来たら必ず飲む」定番土産になっています。この二つを組み合わせた金色の派手なパッケージは、中華圏観光客・在外华人への土産需要を完全に一点突破しています。

重要なのは「マレーシアらしさ」というIPを最大限に活用した商品設計です。「どこでも買える汎用品」ではなく「ここでしか買えないマレーシアの象徴」として機能させることで、観光土産市場における価格競争から完全に抜け出しています。

【Sin Sing Coffee】1959年創業の老舗コーヒーメーカーです。試飲カウンターの回転率が会場で最も高く、地元マレーシア人の「日常的な信頼」を何十年もかけて積み上げてきた底力を感じます。「Meet U」というブランド名が示すように、コーヒーを「人と人が出会う場を作る飲み物」として位置づけるナラティブが一貫しています。

33:Ma Ma Liang Egg(Guangxi Rural Investment)——「長寿の土地」をテロワールにするブランディング

製品:高級卵 / 氷糖橙(冰糖橙)

「世界長寿郷・麻陽(Mayang)」——中国湖南省麻陽苗族自治県は100歳以上の長寿者の割合が世界トップクラスの地域として認定されています。Ma Ma Liang Eggはこの「土地の物語(テロワール)」を最大の付加価値として使います。

フランスのワイン産業が「特定の土地・気候・土壌が生み出す唯一無二の味」をテロワールとして価格に転換してきたように、Ma Ma Liangは「長寿の土地で育った卵・フルーツ」という物語を付加価値にして、一般農産物より数倍の価格で販売しています。人間の根源的欲求である「長寿」に直接リンクする強力なブランドナラティブです。氷糖橙はその場で食べさせてもらいましたが、確かに驚くほど甘く果汁が豊富でした。「物語だけでなく、実際においしい」——これが本物のテロワール商品の強みです。

Ma Ma Liang Egg 中国長寿地域 高級卵 氷糖橙 テロワール ブランディング
「長寿の土地の恵みを丸ごと輸出する」——テロワール×長寿欲求のブランディング

34:Swiftlet City(東馬京燕)——燕の巣という「食べる宝石」の真贋市場

燕の巣(ツバメの巣)は中華圏の富裕層にとって最高級の美容・滋養食材です。シアル酸を豊富に含み、肌の若返り・免疫力向上・滋養強壮への効果が伝統的に信じられています。価格は純度・産地・加工方法によって100gあたり数千円〜数万円まで大きく異なります。

しかしこの市場では偽造品・漂白品が横行しており、消費者の信頼獲得が最大の課題です。東馬京燕は正規輸出ライセンス・繊維密度・白度のグレード基準を可視化した証明書を展示することで、「本物である証明」を徹底します。加工前の原体(燕の巣の塊)を山積みにして展示することで、製品の起源と本物感を物理的に示す演出も効果的です。

マレーシアはボルネオ島産燕の巣の世界最大輸出国の一つで、東馬(東マレーシア)産は特に品質が高いとされています。中国・香港・シンガポール向け輸出に加え、越境EC経由での直販も急拡大しています。

Swiftlet City 東馬京燕 燕の巣 正規輸出ライセンス 原体展示 本物感

35:GPR GOLD——乾物を宝石のように並べる贈答文化の完全体現

会場で最も視覚的インパクトがあったブースです。金色のアーチとLED装飾が輝く展示空間に、アワビ・ナマコ・フカヒレ等の高級乾物が宝石のようにディスプレイされています。

中国・マレーシア华人文化における贈答の論理は日本とは異なります。日本では「相手に喜んでもらえるか」が重視されますが、华人文化では「どれだけ豪華で高価なものを贈ったか(面子=メンツ)」が同等以上に重視されます。アワビ・ナマコは縁起物として旧正月・婚礼・節目の贈り物に使われ、その「豪華さの物量」が贈り手の誠意と財力を示します。

GPR GOLDはその文化的文脈を完全に理解したブース設計をしています。クッキー缶で築いた巨大な壁・金箔装飾のギフトボックス——「見た目の豪華さ=価値」という方程式を最大化することが、このカテゴリーでの競争原理です。

GPR GOLD プレミアムクッキー缶 旧正月 豪華ギフト 中国縁起物
GPR GOLD。クッキー缶で築いた城——「見栄え」で価値が決まる贈答文化を体現

36〜40:CVT / Guangxi Green Food / Guilin Aiming / Anhui Jiuzhou / T.O.N——ライブコマース最前線

【CVT(Cross Vietnam Trade)】中国・ベトナム・タイをまたぐ食品商社です。海外バイヤーとの商談を試食体験から始める手法は、すでに業界標準化しています。「食べてみなければわからない」という食品の本質的な課題を、試食という体験で解消する。

【Guangxi Green Food Promotion Center】中国・広西チワン族自治区政府が主導する地域産品の輸出プロモーション機関です。個別企業ではなく政府機関が「地域ブランド」をまとめて輸出促進するモデルは、日本の「ジャパン・パビリオン」に相当しますが、統一コンセプトの徹底度と出展企業のレベル管理が格段に高い。

【Guilin Aiming】TikTokライブ配信と展示会のリアル試飲を連動させた最新型販促スタイルが印象的でした。展示ブースの来場者がTikTokライブの「リアル視聴者」になり、オンラインの視聴者が「この会場に行きたい」と思う相互作用を設計しています。オフラインとオンラインを切り離さない「OMO(Online Merges with Offline)」の実践例です。

【T.O.N(The Olfactory Notes)】ケーキのような見た目の石鹸というコンセプトが秀逸です。「Yummy Looking(おいしそうな見た目)」を謳い、視覚的可愛さでギフト需要を喚起します。石鹸という日用消耗品を「食べ物に見えるアート作品」として再定義することで、SNS拡散・ギフト需要・プレミアム価格設定を同時に達成しています。

Guilin Aiming TikTokライブ 農業系メーカー ライブコマース OEM

第4部 Culture & Branding——Guochao(国潮)の衝撃:中国企業が「安売り」をやめた

「中国製=安かろう悪かろう」——この認識が完全に崩壊しつつあることを、MIBS 2025で確信しました。中国の若年層を中心に広がる「Guochao(国潮)」ムーブメントは、自国の伝統文化・歴史・美学を「クールなコンテンツ」として再定義し、高付加価値ブランドとして世界市場に輸出する動きです。日本の「和ブランディング」がガラパゴス化しつつある危機感とともに報告します。

41:Song Chao(宋朝香気)——会場最高評価、日本の「和」ブランディングを超えた完成度

製品:Chinese Fragrance & Lifestyle

MIBS 2025の全50社の中で、ブランディングの完成度という観点で私が最高評価を与えたのがSong Chao(宋朝香気)です。

「宋」とは中国の宋王朝(960〜1279年)のことです。この時代は中国文化の洗練が頂点に達した時期で、文学・絵画・陶磁器・茶道・香道が高度に発展しました。Song Chaoはその「宋の美学」を現代のフレグランスブランドとして再構築しています。

ディフューザー・ルームフレグランス・香りのギフトセットという製品群は、日本の「和を感じさせる香り」と競合するカテゴリーです。しかし淡い青緑・象牙・金という宋の陶磁器を想起させるカラーパレット、漢字の筆文字と現代的なタイポグラフィを組み合わせたパッケージデザインは、国際的な高感度消費者に向けて完全に計算されています。

私はここで「日本の和ブランディングを超えている」と感じました。日本の和ブランドの多くは「日本人が思う日本らしさ」を表現しています。しかしSong Chaoは「世界の富裕層が望む東洋の美」を表現しています。その視点の違いが、グローバル市場での訴求力の差になっています。中国の若年層(Z世代・ミレニアル)の「自国文化への誇り」が生み出すGuochaoの力は、日本の「外向けの和」より遥かに強い真正性を持ちます。

宋朝香気 Song Chao Guochao 国潮 中国伝統 フレグランス モダンデザイン
宋朝香気。「中国の伝統文化×モダンデザイン」が日本の「和ブランディング」を超えていた

42〜43:Mingxin Tea Culture(茗心茶文化)/ Meixin International——お茶を「芸術体験」に昇華する価格戦略

【茗心茶文化】「国家級技能大師」(中国政府が認定する最高位の職人資格)による茶芸の実演は圧巻でした。お茶を淹れる所作そのものが美しく、それを見るために人が集まる。「お茶を売る」のではなく「茶芸という文化体験を売る」ことで、茶葉の単価を何倍にも引き上げることができます。

これは日本の茶道と同じ発想ですが、重要な違いがあります。日本の茶道は「習う文化」として閉じた世界に留まりがちですが、茗心茶文化は「見せる文化」として展示会・ライブコマース・SNSで開いています。伝統文化の継承と商業化を両立させる方法論として、日本の伝統工芸業界が参考にすべき事例です。

【Meixin International】ピンク色のパッケージで統一された有機紅茶ブランドです。「中国茶=落ち着いた渋い色彩」というステレオタイプを崩し、20〜30代女性向けにポップでフォトジェニックなデザインを採用しています。Guochaoの文脈における「伝統の再定義」——古いものをそのまま売るのではなく、現代の感性でリパッケージする戦略の好例です。

44:King Golden Plaque(LK Group / 正潮乙品)——機能性ゼロ・社会的価値最大の商品

製品:Golden Surnames Plaque(百家姓 黄金額装)

この商品を見た瞬間、「商売の本質とは何か」を改めて考えさせられました。黄金の名字額装——「李」「陳」「王」等の姓を金文字で大型プレートに仕立てた装飾品です。機能性はゼロです。食べられない、役に立たない、使えない。しかし価格は数万円〜数十万円で飛ぶように売れています。

华人(海外在住中国系の人々)にとって「姓(名字)」は家族・一族のアイデンティティを体現するものです。「自分の姓を黄金で飾る」という行為は、先祖への敬意・一族の誇り・成功の証明を同時に表現します。式典・企業ロビー・豪邸のホールに飾られるこのプレートは、「この家は成功している」「この一族は誇りを持っている」というメッセージを来客全員に伝える社会的装置です。

機能的価値がゼロでも、感情的・社会的価値が最大の商品は高単価で売れる——この原則は、日本のブランド戦略においても等しく有効です。

LK Group King Golden Plaque 百家姓 黄金額装 华人文化 面子 誇り
黄金の名字額装——「機能性ゼロ・社会的価値最大」の商品が高単価で売れる华人市場の論理

45〜48:Uki Silver / Yiwu Zhaoyang / Hua Bin Lantern / Wenzhou Fly Craft——「中国製=ダサい」イメージの終焉

【Uki Silver】ブースの設計がアパレルショップそのものです。巨大モデル写真・スタイリッシュな什器・試着・撮影体験スペースが完備されています。シルバー(銀)アクセサリーという従来は「職人の工房」というイメージだったカテゴリーを、完全にファッションブランドの文法で再構築しています。「中国製アクセサリーは安っぽい」というイメージを払拭するためのブランド投資の徹底ぶりに圧倒されました。

【Hua Bin Lantern】高さ2mを超える巨大ランタンから、多段構造のタワー型ランタンまで。春節・中秋節等の中国文化圏の祭事シーズン、ホテルロビー・ショッピングモールの装飾需要を狙った完全なプロ仕様の商業インフラです。「圧倒的な物量と品質」を価値にしており、個人向けではなく法人・施設向けのB2Bビジネスとして完成されています。

これらの企業に共通するのは「中国の文化・祭事・伝統を、世界クオリティのデザインで再構築する」という姿勢です。自国文化への確固たる誇りが、Guochaoというムーブメントの根底にあります。

Hua Bin Lantern 商業施設向け 春節用 巨大ランタン プロ仕様

第5部 Infrastructure——すべての商取引を可能にする血管

49:XTransfer——「中国への支払い」を民主化する越境決済インフラ

MIBS 2025で展示されている商品の多くは「中国製・中国発」です。それを実際にビジネスとして動かすためには、中国サプライヤーへの安全・迅速な送金が不可欠です。しかし中小企業にとって、国際送金は手数料が高く・手続きが複雑で・着金まで数日かかる「壁」になっています。

XTransferはその壁を取り除きます。「Pay to China」というシンプルなメッセージのもと、中小企業がスマートフォン一つで中国サプライヤーへ複数通貨で即時送金できるプラットフォームを提供しています。J.P.Morgan・HSBC・Standard Charteredなど国際金融機関との提携を展示することで「スタートアップではなく信頼できる金融インフラ」であることを示しています。

このようなB2B決済インフラが整備されることで、ASEAN全域の中小バイヤーが「中国製品を安心して仕入れられる」環境が作られます。MIBS 2025のような展示会で生まれた商談が、実際の取引として成立するためのラストワンマイルをXTransferが担っています。

50:Zhejiang Export Fair(浙江省輸出商品交易会)——マレーシアをアジアへの水門にする戦略

浙江省は中国最大の輸出産業集積地の一つです。義烏(Yiwu)の雑貨・温州の靴・寧波の家電・杭州のデジタル製品——これらを世界に売り出すために、マレーシアを「ハブ」として活用する国家レベルの戦略がここに体現されています。

掲示されたイベントカレンダーにはバングラデシュ・ネパール・スリランカ・パキスタンの都市名が並んでいます。マレーシアから南アジア・中東へと商品を流し込む「水門」としての機能が設計されています。「一帯一路」構想の民間版ともいえるこの流通ネットワークは、すでに日本の輸出戦略が太刀打ちできないスケールで動いています。


総括と提言——脳内から脱出し、野性を取り戻せ

50社を歩き切った後、私はロビーのベンチに座って30分間ノートを書き続けました。頭が熱い状態でした。日本企業が陥っている「脳内マーケティング」と、アジアの現場にある「肉体リアリティ」の差が、これほどまでに明確に可視化された体験は初めてでした。

以下に、MIBS 2025の取材から導き出した3つの提言を記します。

INSIGHT 01:スペックを捨て、体感を売れ

成分表の0.1%の違いを競うな。消費者は成分を比較して購入を決めているのではなく、「これは自分に効く」という体感・確信・感情によって購入を決めています。DasLegaの生姜ショットのように、飲んだ瞬間に体が反応する「圧倒的な体感」を作れ。Bio Health Doctorのように、10分間横になって温めてもらえ。説明が必要な商品は、この市場では通用しません。

「説明なしで体が反応する商品」を作ることは、日本の製品開発への根本的な問い直しを迫ります。R&Dの方向性、マーケティングの言語、販売の現場——全てが「体感」を起点に再設計される必要があります。

INSIGHT 02:タレントに頼るな、社長が出ろ

綺麗なCMはいらない。数千万円の広告費で「認知」を買うより、Tuan Das Abdul氏のように、作り手自身が汗をかき、ライブ配信で熱狂を作れ。「社長=最強のインフルエンサー」であるべき時代が来ています。

日本でも三代目JSB・ヒカキンを使った広告より、創業者・経営者が直接語りかける動画の方がエンゲージメントが高いケースが増えています。「誰が作ったか」「誰が売っているか」——作り手の顔と熱量が見えることが、情報が氾濫する時代における最強の差別化になります。

INSIGHT 03:調整するな、投入せよ

完璧なデザインや物流網ができるのを待つな。手書きの研究パネルでもいいから市場に飛び込んで反応を見ろ。日本企業に必要なのは「未完成のまま走る野性」です。

MIBS 2025の企業の多くは「準備万端」ではありませんでした。手書きのパネル・印刷が歪んだ名刺・英語が怪しいプレゼン資料——しかし彼らは現場にいて、客に声をかけ、商品を渡し、スマートフォンでその場で商談を締めていました。「完璧な状態で市場に出る」という発想が、日本企業の市場参入速度を致命的に遅くしています。

マレーシアの熱気は、私が置き忘れてきた「商売の野性」への帰還を促しています。MIBS 2026でまた来る——そう心に決めてクアラルンプールを後にしました。


GITEX AI EUROPE 2026(ベルリン、2026年6月)メディアパートナー。アジア市場への参入戦略・越境EC・現地ブランディングのご相談はLIFRELLまでお気軽にどうぞ。

佐藤 祐介(株式会社LIFRELL 代表取締役)
本記事は2025年12月開催のマレーシア国際ブランディングショーケース(MIBS 2025)現地取材に基づくレポートです。各企業の分析・評価は筆者の独自見解です。

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