月産1,000本のUGC広告を量産する「Make Clips流」スケーリング・バイブル

目次

〜0から90日で構築する最強の組織論と泥臭い実務の全貌〜

Speaker: Iveta Makatočska (Founder, Make Clips) Event: Affiliate World Asia 2025 (AWA25) Topic: Building a UGC Content Machine


【序章】UGC制作に「魔法」は存在しない。あるのは「規律」だけだ

多くのDTCブランドや広告代理店が、UGC(User Generated Content)の活用に乗り出し、そして挫折していきます。「クリエイターが見つからない」「クオリティが安定しない」「管理コストが膨大で割に合わない」。これらは全て、適切なプロセスを経ていないが故の必然的な失敗です。

私はDTC業界で8年以上の経験を持ち、過去数年間で数百のブランドを支援してきました。私のエージェンシー「Make Clips」では、現在月間1,000本以上の広告クリエイティブを制作・納品しています。これは特定の「当たりやすい商材」だけの話ではありません。アパレル、アクセサリー、食品、飲料、ウェルネス、キッチン用品、スキンケア、教育商材、家具、子供用品、そして金融商品に至るまで、**あらゆるニッチ市場で検証され、再現性を証明してきた「プレイブック(定石)」**です。

今日、私が皆さんにお渡しするのは、単なる「ヒント」ではありません。0からスタートし、わずか90日間で月産1,000本体制までスケールさせるための、血と汗と涙の結晶である**「完全なロードマップ」**です。


【第1章】Day 1-30:孤独な戦いと「解像度」の向上

〜なぜ、最初は「たった一人」でなければならないのか〜

まず、タイムラインの最初、Day 1からDay 30(月産0〜100本)のフェーズについてお話しします。 この段階において、必要な従業員は誰でしょうか? 優秀な編集者? 経験豊富なディレクター? いいえ、違います。「あなた自身 (YOU)」 です。

多くの創業者が、この泥臭い初期段階を他人任せにしようとして失敗します。しかし、断言します。最初の100本を作る苦しみをあなた自身が味わわなければ、その後のスケールは絶対に不可能です。 なぜなら、このフェーズであなたが担う役割は「単なる発注者」ではなく、**「クリエイティブ・ストラテジスト(戦略家)」**という、極めて多岐にわたる業務の集合体だからです。

スライドに映し出された**「Creative Strategist」**の定義を見てください。ここには、あなたが一人でこなすべき24ものタスクが網羅されています。

  1. 戦略と企画 (Strategy & Planning):
    • Persona Building(ペルソナ設計): 誰に売るのか? 年齢や性別だけでなく、その人の生活習慣まで特定します。
    • Trend Forecasting(トレンド予測): TikTokやReelsで今、何が流行っているのか? 音源は? 構成は?
    • Idea Generation(アイデア出し): 無数の切り口を言語化します。
    • Storytelling(ストーリーテリング): 商品をどのような物語に乗せて届けるか。
  2. 分析とリサーチ (Analysis & Research):
    • Competitor Analysis(競合分析): 競合はどんな広告を出しているか? なぜそれが回っているのか?
    • Brand Analysis(自社分析): 自社の強みは何か?
    • Audience Insights(顧客インサイト): 顧客が本当に悩んでいることは何か?
  1. 制作実務 (Production Management):
    • Creator Selection(クリエイター選定): ブランドの顔となる人物を選ぶ。
    • Internal Briefs & Creator Briefs(指示書作成): 社内用と演者用で言語を使い分ける。
    • Moodboarding(ムードボード作成): 言葉で伝わらないトーン&マナーを可視化する。
  2. 危機管理と品質保証 (Crisis & Quality):
    • Managing Crisis(トラブル対応): ここが最も精神を削る部分です。
    • Quality Control(品質管理): 上がってきた動画が基準に達しているか、1秒単位でチェックする。

皆さんは笑うかもしれませんが、私の初期の頃のエピソードをお話ししましょう。ある土曜日の夜、クリエイターから一本のメッセージが届きました。「ビーチで撮影していたら、猿にバッグを奪われた。 あなたが送ってくれた商品も、私の私物も全部なくなった。どうすればいい?」

これがUGC制作の現場のリアルです。猿に商品を盗まれることさえあります。クリエイターが音信不通になることなど日常茶飯事です。こうした**「予測不能な人間臭いトラブル」をあなた自身が経験し、その解決策(予備の商品を送る、契約書でリスクヘッジする等)を肌感覚として持っておかなければ、後にチームを持った時、部下に適切な指示が出せない**のです。だからこそ、最初の30日は「あなた自身」が全てをやる必要があります。


【第2章】Day 30-60:最初のボトルネックと「右腕」の採用

〜編集者を「作業員」にするか、「マーケター」にするか〜

あなたが不眠不休で働き、月産100本の壁が見えてきた頃(Day 30-60)、最初の限界が訪れます。撮影素材は集まるが、それを動画広告として形にする時間が足りなくなるのです。 ここで初めての採用を行います。採用すべきは**「Video Editor(動画編集者)」**です。

しかし、ここで多くの人が間違いを犯します。「Premiere Proが使える人」「カット作業が速い人」を採用してしまうのです。それではスケールしません。あなたが採用すべきは、**「マーケティング脳を持った編集者」**です。

スライドにある**「Video Editor」**の役割定義を見てください。彼らの仕事は、素材を繋ぐことではありません。

  • Content Filtering(素材の選別): 送られてきた数時間の素材の中から、売れる「3秒」を見つけ出す選球眼。
  • Hook Optimization(フックの最適化): 冒頭でユーザーの親指を止めさせるための工夫。
  • Platform Formatting(プラットフォーム最適化): TikTokならTikTokの、ReelsならReelsの「文脈」に合わせた編集。
  • Visual Consistency(視覚的一貫性): ブランドの世界観を崩さないカラーグレーディングやフォント選び。

彼らは単なるオペレーターではなく、あなたの戦略を具現化する**「右腕」**です。過去の動画のパフォーマンス(CTRやCVR)を分析し、「次はこういう構成でやってみましょう」と提案できるレベルの人材を育ててください。優秀な編集者が一人いれば、素材さえあれば月間100本以上のバリエーションを生み出すことは容易です。


【第3章】Day 60-90:組織崩壊の危機と「1,000本の壁」

〜カオスを飼いならすための組織変革〜

さあ、月間300本を超え、いよいよ1,000本を目指すフェーズ(Day 60-90)に入ります。ここで、ビジネスの景色は一変します。 これまでは「制作スピード」が課題でしたが、ここからの敵は**「コミュニケーションの崩壊」**です。

スライドに映し出された、無数のチャット画面(吹き出し)を見てください。これが、月産300本を超えた私のスマホの画面です。

  • 「ごめん、今日眉毛の形がおかしいから撮影できない…」
  • 「アップロードが97%で止まって、WiFiが死んだ…」
  • 「飼い犬が三脚を噛み砕いたから、新しいのを買うまで待って…」
  • 「自然光で撮りたいけど、太陽が雲に隠れて出てこない…」
  • 「いとこの結婚式が急に入ったから来週にして…」

クリエイターはあなたの社員ではありません。彼らは普通の主婦であり、学生であり、フリーターです。彼らの生活には、こうした個人的で、時には理不尽なトラブルが常に発生します。これを、戦略立案を行う「クリエイティブ・ストラテジスト」がイチイチ対応していたらどうなるでしょうか? 「眉毛の心配」をしている間に、本来考えるべき「次のヒット企画」を考える時間が奪われていくのです。 これが、多くの組織が300本で頭打ちになる原因です。

■ コミュニケーション・スペシャリスト(Comms Specialist)という発明

このカオスを打破するために、私は組織図を抜本的に書き換えました。 そして新設したのが、**「Communication Specialist(コミュニケーション・スペシャリスト)」**という役職です。

スライドの組織図を見てください。この役職は、いわば**「クリエイター管理の防波堤」**です。

  • Negotiation(交渉): クリエイターが不当な追加料金を請求してきた時、毅然と交渉する。
  • Deadline Management(納期管理): 「眉毛がおかしい」と言い訳するクリエイターをなだめ、代替案を提示し、納期を守らせる。
  • Relationship Building(関係構築): 事務的な連絡だけでなく、彼らの人生(結婚、出産、就職)に寄り添い、信頼関係を築くことで、無理なお願いも聞いてもらえるようにする。

この役割を専任化することで、上位レイヤーである**「Creative Lead(クリエイティブ・リード)」「Creative Strategist(戦略家)」は、純粋に「売れる企画」「リサーチ」「分析」に集中できるようになります。 「クリエイターとの連絡係なんて、誰でもできる仕事だ」と軽視しないでください。スライドにある「And you think that’s not a “real” responsibility?(これでも”本当の仕事”じゃないと言えますか?)」**という言葉が示す通り、この泥臭い感情労働こそが、システム全体を円滑に回すための潤滑油なのです。


【第4章】The Playbook:1,000本を支える実務プロセス

〜「リサーチ」と「指示出し」の解像度が勝敗を分ける〜

組織ができても、プロセスが間違っていればゴミのようなクリエイティブが1,000本できるだけです。私たちが実践しているプロセスの中で、特に日本のマーケターが明日から真似すべき2つのポイントを紹介します。

1. リサーチの深さが違う(Deep Research)

多くのマーケターは「30代女性、美容に関心あり」程度のリサーチで満足してしまいます。しかし、私たちは違います。スライドの「EKSTER(スマートウォレット)」の事例を見てください。 私たちは**「Watch Carefully(注意深く観察せよ)」**を合言葉に、ターゲットの生活を覗き見ます。

  • 彼はどんなデスクを使っているか?(木製か、ガラスか?)
  • PCの横には何を置いているか?(ブラックコーヒーか、エナジードリンクか?)
  • スマホケースはどんなものか?
  • 週末にはどんなバッグを持って、どこに出かけるのか?

ここまで具体的にイメージ(妄想)し、それをリサーチ段階で固めます。なぜなら、動画の背景に映り込む「生活感」こそが、視聴者に「これは自分に向けられた動画だ」と思わせるトリガーになるからです。

2. 指示出しは「テキスト」ではなく「ビジュアル」で

リサーチで固めたイメージを、クリエイターにどう伝えるか? ここで**「長いテキストの指示書」を送るのは最悪の手**です。クリエイターは長い文章を読みません。読んだとしても、解釈がズレます。

私たちは**「Visual Brief(視覚的指示書)」**を使います。

  • 「明るい部屋で撮って」と書く代わりに、理想的な部屋の写真を見せる。
  • 「楽しそうに笑って」と書く代わりに、リファレンス動画の「5秒目の笑顔」を指定する。
  • 「商品はこう持って」と書く代わりに、持ち方の図解を送る。

言葉での指示を極限まで減らし、視覚情報で共通認識を作る。これが、遠隔地にいる数百人のクリエイターと、クオリティのブレない動画を作る唯一の方法です。


【第5章】結論:スケールするための「覚悟」

最後に、Q&Aセッションで聞かれたことへの回答も含めて、結論を述べます。

Q: コストはどれくらいかかるのか? A: 大規模に(月1,000本レベルで)展開する場合、月間予算は5万ドル〜15万ドル(約750万円〜2,200万円)規模になります。クリエイターへの報酬(1本あたり数百ドル〜)やチームの人件費が必要だからです。しかし、そこから生まれる売上はそれを遥かに凌駕します。

Q: AIアバターじゃダメなのか? A: 私はAIアバターによるUGCが好きではありません。UGCの本質は「人間味(Humanity)」です。視聴者は、画面の向こうの人間が「自分と同じ悩み」を持ち、「本当に喜んでいる」姿に共感して財布を開くのです。現在のAIには、その「感情の機微」や「不完全さゆえの信頼」はまだ作れません。

【日本のマーケターへの最終提言】 月産1,000本のUGC制作は、決して魔法のような自動化ツールで実現するものではありません。 それは、**「猿にバッグを盗まれる」ような予測不能なトラブルをシステムで管理し、クリエイターという「人間」の感情に向き合い、泥臭いコミュニケーションを積み重ねた先にある「規律の勝利」**です。

  1. 最初の30日は、リーダー自身が全ての泥臭いタスクを経験しなさい。
  2. 編集者をただの作業員にせず、マーケターとして育てなさい。
  3. クリエイターとの連絡係(Comms Specialist)を専任で置き、戦略家を守りなさい。
  4. テキストで指示せず、ビジュアルで指示しなさい。

これが、Make Clipsが90日間でゼロから業界トップクラスの規模までスケールした全貌です。次は、皆さんの番です。


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