スピーカー:Shabazz(Venture Beyond CEO) イベント:Affiliate World Asia (AWA)
はじめに:なぜ「広告運用」ではなく「生産体制」が重要なのか
会場の皆さんの多くはEコマースに携わり、Facebook広告を運用し、ブランドを所有していることでしょう。 私が今日お話しするのは、過去5年間で私が構築し、検証してきた「スケーリング(事業拡大)のメソッド」です。
我々はこれまで4億ドル(約600億円)以上の広告費を運用し、クライアントに数億ドルのリターンをもたらしてきました。例えば、あるアカウントでは開始数週間で巨額の利益を生み出し、9月中旬に再開した際には最初の8〜9週間で爆発的な売上を記録しました。

しかし、ここで重要なのは単なる「数字」ではありません。 **「創業者が広告管理画面にかじりつくのをやめ、チームが自律的に週に何十本もの広告を生み出す体制(マシン)」**をどう作るか。その具体的な設計図をお渡しします。
第1章:思考の転換 「量」が「質」を凌駕する
陶芸教室の寓話
ある陶芸教室の話をしましょう。教師は生徒を2つのグループに分けました。
- 「量」のグループ: 30日間で「50個」のポットを作ればA評価を与える。クオリティは問わない。
- 「質」のグループ: 30日間で「たった1個」でいいから、最高のポットを作ればA評価を与える。

結果はどうだったと思いますか? 「最高の作品」が生まれたのは、皮肉にも「量」を追求したグループからでした。 彼らは失敗を恐れずに作り続け、実験し、その過程で粘土の扱い方を身体で覚えたからです。一方、「質」のグループは理論ばかりを考え、完璧を求めるあまり手が動かず、平凡な作品しか残せませんでした。
広告における「成功率」の真実
これは広告運用と全く同じです。 どんなに優れたマーケターでも、広告のヒット率(Winnerになる確率)は**5〜10%程度です。 つまり、10本中9本は失敗します。この現実を受け入れた時、戦略はシンプルになります。「1本のホームランを狙って時間をかける」のではなく、「打席数(テスト数)を圧倒的に増やす」**ことです。
私のチームでは、アド(広告)の品質よりも、まずは「ボリューム」と「効率」を最優先します。テストを繰り返せば繰り返すほど学習データが溜まり、結果としてCPA(獲得単価)は下がり、利益は最大化されます。
第2章:組織論 「ポッド型」から「組立ライン型」へ
誰を採用すべきか?
多くの企業は「マーケティングの学位」を持つ人を採用しようとしますが、私の考えは違います。

- メディアバイヤー: STEM(科学・技術・工学・数学)系の学生やデータアナリストが最適です。必要なのはマーケティングのセンスではなく、数字への論理的な理解力です。
- クリエイティブストラテジスト: ビデオ編集スキルよりも「コピーライティング」のスキルを重視します。編集は学べますが、売れる言葉の構成力は才能や深い理解が必要だからです。
失敗した組織図:「ポッド(Pod)型」
当初、我々は「メディアバイヤー」と「クリエイティブストラテジスト」をペアにした「ポッド」というチーム単位で運用していました。 しかし、これはスケールしませんでした。チームの人数が増えると、コミュニケーションコストが爆発的に増え(40人のチームで1500通のやり取りが発生)、業務がパンクしたのです。

成功した組織図:「組立ライン(Factory)型」
そこで我々は、工場のような「組立ライン」に組織を作り変えました。
- グロースチーム(Growth): 中央で戦略を立てる司令塔。
- プロダクションチーム: 撮影、スタジオワーク。
- ポストプロダクション: 編集、仕上げ。
- データチーム: 結果の分析とフィードバック。

この体制では、情報は一直線に流れます。 グロースチームが発注し、プロダクションが素材を作り、ポストプロが仕上げ、広告アカウントに投入される。そしてデータチームが結果を分析し、次回の発注に活かす。このサイクルを**「毎週」**回します。
第3章:制作プロセスのハック術

リードタイムの短縮
アイデア出しから広告配信(ローンチ)まで、最大で7日間。理想は2〜3日です。 これ以上時間がかかっているなら、どこかにボトルネックがあります。多くの場合、それは「承認プロセス」か「制作の停滞」です。我々は各工程にタイマーを設け、どこで時間がかかっているかを常に監視しています。
効率化のテクニック
- アセットの再利用: Adobe Premiereのプロジェクトファイルや、動画のトランスクリプト(文字起こし)を活用します。1本の動画から別のマーケティング・アングル(切り口)を見つけ出し、編集を変えるだけで新しい広告を作ります。
- オープンブリーフ(Open Brief): クリエイターにガチガチの指示書を渡すのではなく、ある程度の自由度(余白)を持たせた発注を行います。「この商品で、こういうターゲットで」という枠組みだけ伝え、あとはクリエイターの創造性に任せることで、我々が思いつかないような「当たり」が生まれることがあります。

多様性こそが王(Diversity is King)
競合のコピーばかりしていませんか? それでは勝てません。 アルゴリズムは「多様性」を求めています。
- 静止画、動画、カルーセル。
- UGC風(ユーザー生成コンテンツ)、高画質なプロ仕様、機能説明型。
- オファー(特典)の変更。
我々はあるブランドで、売上が伸び悩んでいた時に「無料のクレンザーをプレゼントする」というオファーに変更し、その価値をLPと広告で明確に伝えたところ、最初の数ヶ月で100万ドル近い利益の上乗せに成功しました。微調整ではなく、大胆な変化(オファーやアングル)のテストが必要です。
第4章:インセンティブ設計 「人は報酬通りに動く」
スタッフやクリエイターをどう動機づけるか。これがスピードを生む鍵です。
1. クリエイターへの「1%」コミッション
我々はトップクラスのコンテンツクリエイターに対し、制作費(1本300〜500ドル)とは別に、「その広告が使用した広告費の1%」をボーナスとして支払っています。 昨年、トップのクリエイターはこれだけで25万ドル(約3,700万円)以上を稼ぎました。 こうすると何が起きるか? 彼らは自ら「次はいつ納品すればいい?」「もっと良いアイデアがある」と提案してくるようになります。彼らは自分の作った広告が長く配信される(=広告費が使われる)ことを望むため、勝手にクオリティとパフォーマンスを追求し始めるのです。
2. メディアバイヤーへの「ティア(階層)」ボーナス
オフィスのダッシュボードには、メディアバイヤーごとの目標消化額(Target Spend)が表示されています。
- ティア1(白):基本給の10%ボーナス
- ティア2(緑):基本給の50%ボーナス
- ティア4(青):基本給の100%ボーナス(給与倍増)
目標のROAS(費用対効果)を守りつつ、広告費を多く使えば使うほど(=売上規模を作れば作るほど)、彼らの給料は跳ね上がります。これにより、彼らは必死に「当たりクリエイティブ」を探し、予算を拡大しようと努力します。
第5章:テクノロジーとQ&A
AIとソフトウェアの活用
- 自社製ソフトウェア: Monday.comなどの既存ツールでは限界が来たため、自社で管理ツールを開発しました。「誰が何本作り、どれが当たったか」を可視化しています。
- AI(Soraなど)の使い所: Soraのような動画生成AIは、B-Roll(インサート映像)には使えますが、広告の核心部分(フック)にはまだ「人間の顔と声」が必要です。信頼性が違うからです。我々はAIを効率化(文字起こし、翻訳、素材のバリエーション出し)に使いますが、全てをAIに任せることはしません。
Q&Aセッションからの洞察
Q:大量に広告を出すと「クリエイティブ疲労(飽き)」や「共食い」が起きませんか? A: 起きません。Facebookの仕様上、同じ広告セット内であればオークションで競合することはありません。むしろ、疲労は「必ず起きるもの」としてプロセスに組み込むべきです。防ぐのではなく、疲れて使えなくなる前に次の弾を用意し続けるのです。
Q:最大の失敗は? A: Facebookのバグで、1時間で5万ドル(約750万円)を溶かしたことがあります。しかし、これは返金されることもありますし、何より日々の莫大な運用の中では「誤差」です。もっと怖いのは、CPM(インプレッション単価)の高騰や、何もテストせずに停滞することです。
Q:パフォーマンスの悪いメンバーはどうしますか? A: トップ10%の人材が80%の価値を生み出すのがこの業界です。トップパフォーマーを見極め、彼らにリソースを集中させます。逆に、成果の出ないクリエイターやバイヤーには早めに見切りをつけることも重要です。
Liftech編集部による「日本市場向け」補足
(Speakerの意図を損なわない範囲での実装ガイド)
このセミナーの核心は**「属人性の排除」**にあります。日本の現場では「1本のクリエイティブ」にこだわりすぎて承認に2週間かけるケースも珍しくありませんが、Shabazz氏はそれを「機会損失」と断じています。
日本企業が明日から真似できるポイント:
- 報酬制度の再考: 外部の制作会社やフリーランスに対し、「納品単価」ではなく「成果(配信金額)連動」の報酬を提示できるか検討する。
- 承認フローの簡略化: 「てにをは」の修正に時間をかけるのをやめ、コンプライアンス的にNGでなければ即配信し、数字で判断する文化を作る。
- 理系人材の採用: マーケティング経験者ではなく、数字に強く論理的な異業種人材をメディアバイヤー(運用者)として採用する。

