登壇者:
- ジェンスン・フアン(Jensen Huang): NVIDIA CEO
- ラリー・フィンク(Larry Fink): BlackRock CEO

1. 序:金融の巨人が見た「異常なまでのリーダーシップ」
セッションの冒頭、ブラックロックのラリー・フィンクは、ジェンスン・フアンという経営者への賞賛から話を始めました。
「私がジェンスンを尊敬しているのは、彼がNVIDIAを導いてきたその圧倒的な成果ゆえです。1999年のIPO以来、NVIDIAの株主への総還元率は年利37%という、驚異的な数字を叩き出しています。これは全ての年金基金にとってどれほど大きな意味を持つか、考えてみてください」
ラリーは冗談めかしてこう続けました。 「NVIDIAの株があまりに高くなったので、私の唯一の心残りは、IPO後に両親にメルセデス・ベンツを買ってあげたことです。今の価値で言えば、それは世界で最も高価な車になってしまいましたよ」
この軽妙なやり取りの裏で、ラリーが伝えたかったのは一つです。NVIDIAはもはや一企業の成功物語ではなく、**「世界が未来を信じるための指標」**になっているということです。
まとめ資料
https://lifrell-tech.com/wp-content/uploads/2026/01/AI_Global_Infrastructure_And_Industry.pdf
2. AIの本質:「アプリ」ではなく「プラットフォーム・シフト」である
ジェンスンは、AIをめぐる議論の前提を正すことから始めました。多くの人がChatGPTなどの「アプリケーション」に目を奪われていますが、彼の視点はもっと下の「層」にあります。
「まず、AIを『新しいソフトウェア』として捉えるのをやめましょう。これは過去のテクノロジー・サイクル――インターネット、モバイル、クラウド――と同じか、それ以上の規模で起きている**『プラットフォーム・シフト』**です」
彼は、これまでのコンピューターとAIの違いを鮮やかに定義しました。 「従来のソフトウェアは『事前に録音された(Pre-recorded)』ものでした。人間がアルゴリズムやレシピを書き、コンピューターはそれを忠実に実行するだけだった。しかし、今のAIは違います。AIは『リアルタイムに生成される(Real-time)』知能です。 コンテキストを理解し、状況に応じて自ら考え、行動を生成する。これは新しいコンピューターの概念なのです」
3. ジェンスンの「5層のケーキ」:AIを支える物理的インフラ
ジェンスンがこのセッションで最も強調したのが、AIを支える物理的なインフラストラクチャーの重要性です。彼はこれを**「5層のケーキ」**という比喩で説明しました。
- エネルギー(底層): 知能を生成するための根源。エネルギーなしにはAIは存在しません。
- チップとコンピューティング・インフラ: NVIDIAが担う、物理的な計算能力の層。
- クラウド・インフラ: それらをサービスとして提供する基盤。
- AIモデル: AnthropicのClaudeやGoogleのGeminiといった、知能の本体。
- アプリケーション(最上層): 金融、健康、製造など、私たちが直接触れる価値の出口。
「多くの人はケーキのトッピング(アプリ)だけを見ていますが、その下にある全てのレイヤーが必要です。今、私たちは人類史上最大規模のインフラ構築を始めています。数百0億ドル、あるいはそれ以上の資金が投入され、世界中に『AIファクトリー』が建設されている。TSMCは20もの新工場を建て、FoxconnやQuantaもAI専用のコンピュータープランを構築しています」
4. 2025年に起きた2つのブレイクスルー:エージェンティックAIと物理的知能
ジェンスンは、2025年から2026年にかけて起きた技術的な大進化についても詳しく語りました。
① エージェンティックAI(Agentic AI)
「去年の大きな進歩は、AIモデルが単なる応答マシンから『推論マシン』へと進化したことです。DeepSeekのようなオープンな推論モデルが登場し、AIは状況を論理的に分析し、ステップ・バイ・ステップで計画を立て、タスクを実行できるようになりました。これを私たちは『エージェンティックAI』と呼んでいます」
② 物理的知能(Physical AI)
「もう一つの大きなブレイクトルーは、AIが物理世界を理解し始めたことです。流体力学、粒子物理学、量子力学といった自然の摂理をAIが学習しています。これが新薬開発や製造業に革命を起こしています。例えばEli Lillyとの提携では、AIがプロテインの構造と化学の構造を理解し、相互作用をシミュレートしています。これはもはや、単なる言語モデルの話ではないのです」
5. 「仕事は消えるか?」:ラジオリストとナースが見せる答え
ラリー・フィンクは、聴衆の多くが抱く「AIによる雇用の代替」という恐怖について切り込みました。これに対し、ジェンスンは**「仕事の目的」**という視点から極めて論理的な答えを返しました。
「かつて、AIが画像認識で人間を超えたとき、『ラジオリスト(放射線診断医)は失業する』と言われました。しかし10年後の今、どうでしょう? ラジオリストの数は増えています」
その理由はこうです。 「彼らの仕事の目的は『スキャン画像を見ること』ではなく、**『病気を治すこと』**だからです。AIがスキャンの読み取りを劇的に速めたことで、彼らはより多くの患者を診られるようになった。病院の稼働率が上がり、医療の質が向上したのです。看護師も同じです。AIが事務作業や記録を肩代わりすることで、彼らは本来の目的である『患者へのケア』に時間を戻すことができた」
ジェンスンの結論は明確です。 「AIはタスクを自動化しますが、人間の目的を奪うことはありません。私たちはタイピスト(打鍵者)から、目的を達成するためのティーチャー(教育者)へと進化するのです」
6. 世界規模のインパクト:ソブリンAIと「プログラミング言語の終焉」
話題は発展途上国への影響にも及びました。
「AIはWi-Fiや5Gのようなトランスフォーメーション・テクノロジーです。全ての国が、自分たちの言語、文化、データに基づいた**『ソブリンAI(主権AI)』**を持つ必要があります。電力と同じように、自国で知能を生成するインフラを持たなければなりません」
そして、ジェンスンは「教育の民主化」についても力強く語りました。 「昔はコンピューターを動かすために『C++』や『Python』などの特殊な言語を学ぶ必要がありました。でも今は、自分の言葉(自然言語)でAIに指示を出せます。これは人類史上初めて、**『誰でもプログラマーになれる』**時代が来たことを意味します。このアクセスの良さが、世界中の格差を埋める大きな力になるはずです」
7. ヨーロッパへの直言:製造業とAIを融合させよ
ヨーロッパの現状について問われると、ジェンスンはエールと同時に厳しい課題も突きつけました。
「ヨーロッパには、類まれな強みがあります。それは『ディープサイエンス』と『強力な製造業の基盤』です。ソフトウェアの時代(インターネット)はアメリカが導いたかもしれませんが、AIの次のフェーズは『物理的なAI』と『ロボティクス』です。これはヨーロッパが得意とする領域です」
「ただし、本気になる必要があります。インフラ・レイヤーに投資するためにエネルギー供給を増やし、リッチなAIエコシステムを構築しなければなりません。AIは書くものではなく、教えるもの(Teach AI)です。今すぐ自分たちの産業知見をAIに教え込ませてください」
8. 結論:これはバブルではない、投資不足である
最後にラリーは、多くの投資家が懸念している「AIバブル」について尋ねました。ジェンスンは即座にそれを否定しました。
「バブルかどうかを問う前に、**『私たちは十分に投資しているか?』**と問うべきです。2025年はVC史上最大の投資年になるでしょう。AIネイティブなスタートアップが何百億ドルもの資金を調達し、新しいアプリケーションを構築しようとしています。それを支えるインフラは、まだ全く足りていないのです」
ジェンスン・フアンのメッセージは、極めてポジティブで、かつ物理的な手触りを持ったものでした。
「私たちは今、人類史上最大のインフラ構築の真っ只中にいます。この未来に参加しない手はありません。皆さんのビジネスに、生活に、AIを取り込んでください」
💡 LIF Tech 解析:ジェンスンの「思考」から私たちが学ぶべきこと
今回の再構成を通じて、ジェンスン・フアンがビジネスリーダーに求めているのは以下の3点です。
- 「階層」で理解する: アプリの流行に一喜一憂するのではなく、その下にあるエネルギー、チップ、クラウドという「物理的な制約」と「投資の規模」を正しく把握すること。
- 「仕事の目的」を再定義する: 自動化に怯えるのではなく、AIによって「事務作業」から解放された後に、人間が果たすべき「本来の目的」は何かを問い直すこと。
- 「教える技術」を磨く: プログラミングを学ぶ必要はないが、AIに自社の強みや専門知を「正しく教え、管理する(Manage AI)」能力が、これからのリーダーの必須スキルとなる。

