橋梁メーカーが本気で作った「人と働く人型ロボット」の衝撃。カワダロボティクスが語る、製造現場のリアルと未来図(第10回ロボデックス セミナー詳報)

現場取材レポート
橋梁メーカーが挑んだ「人型」の30年——カワダロボティクスNEXTAGEが日本の製造現場を変える理由

📅 2026年1月21日取材
📍 第10回ロボデックス・東京ビッグサイト
✍️ LIF Tech編集部
K
執筆・取材:Keito(株式会社LIFRELL 代表取締役)
AIマーケティング・テクノロジー専門メディア LIF Tech編集長。ロボデックス2026に現地取材。
📌 この記事でわかること

  • 橋梁メーカー出身というカワダロボティクスの異色の歴史と、人型にこだわる理由
  • 協働ロボット「NEXTAGE」が2009年の概念誕生前から切り拓いてきた現場のリアル
  • 花王・エーザイ・武州製薬・埼玉の電機工場——具体的な導入事例と解決した課題
  • AI×ロボットで「職人技」を再現した粉体秤量の衝撃的な実績
  • 日本通運との遠隔操作実証、東大松尾研との連携——未来への技術投資の全貌
  • 「5年後に人が集まらなくなる」という製造現場の危機感と、今導入すべき理由

2026年1月、東京ビッグサイトで開催された「第10回ロボデックス」。空前の人手不足と自動化ニーズの高まりを背景に、会場は熱気に包まれていた。その中でも特に注目を集めたのが「ヒューマノイドロボットショー」だ。

第10回ロボデックス 東京ビッグサイト ヒューマノイドロボットショー カワダロボティクス NEXTAGE 2026年1月

第10回ロボデックス会場。ヒューマノイドロボットへの関心は過去最高水準に達していた。

「なぜ今、人型なのか?本当に現場で使えるのか?」——多くの来場者が抱くこの問いに対し、日本のヒューマノイドロボット開発のパイオニア、カワダロボティクス株式会社が行ったセミナーは、単なる製品紹介を超えていた。橋梁メーカーという異端の出自を持つ企業が、「日本にものづくりを残す」ために戦い続けてきた、30年に及ぶ技術と執念の記録だった。


目次

第1章:異端の出自——橋梁メーカーが挑んだ、早すぎた「人型」への挑戦

カワダロボティクス セミナー登壇者 ロボデックス2026 新規事業開発 協働ロボット NEXTAGE

カワダロボティクスのセミナー登壇者。新規事業開発担当のエンジニア出身で、熱量あふれるプレゼンが会場を引きつけた。

セミナーに登壇したのは、カワダロボティクスで新規事業開発を担当するエンジニア出身の担当者だ。冒頭、彼が語った会社のプロフィールからして、聴衆の意表を突いた。

我々は、川田グループという、本来は明石海峡大橋や東京スカイツリーの鉄骨などを手掛ける、バリバリのゼネコン・橋梁メーカーのグループ会社なんです。

カワダロボティクス 新規事業開発担当

巨大構造物を扱う企業が、なぜ繊細なヒューマノイドロボットを手掛けるのか。その原点は、ホンダの「ASIMO」が登場する以前まで遡る。産業用無人ヘリコプターなどを手掛けていた同社の軽量・高剛性のハードウェア製造技術に、東京大学の研究者が目をつけたのが始まりだった。「大学の研究室で使うヒューマノイドロボットを作ってくれないか」——この突拍子もない依頼が、全ての始まりだ。

カワダロボティクス 歴史スライド 研究用ヒューマノイドロボット 産総研 国家プロジェクト NEXTAGE開発経緯

研究用ヒューマノイドロボットから産業用への転換の歴史。産総研の国家プロジェクトへの参画がターニングポイントとなった。

最初は「本当に作れるのか?」という状態からのスタートでした。しかし、実際にモノを作り上げ、やがて産総研(産業技術総合研究所)の国家プロジェクトにも参画することになり、長年、研究用ヒューマノイドロボットのプラットフォームを提供し続けてきました。

カワダロボティクス 新規事業開発担当

しかし、彼らは単なる研究用ロボットメーカーで終わるつもりはなかった。グループの母体である建設業や物流業が将来的に深刻な労働力不足に陥ることは明白だったからだ。「いつか必ず、現場で働く人型ロボットが必要になる」——その確信が、彼らを突き動かしていた。

カワダロボティクスの沿革——30年の技術蓄積

  • 1990年代〜川田グループとして橋梁・建設事業を展開。産業用無人ヘリコプター等の精密機械製造技術を蓄積。
  • 2000年代前半東京大学研究者からの依頼をきっかけに研究用ヒューマノイドロボット開発へ参入。産総研の国家プロジェクトに参画。
  • 2009年産業用双腕ロボット「NEXTAGE」を発売。「協働ロボット」という言葉が生まれる前から、安全柵なしで人と働けるロボットを世に出す。
  • 2010年代花王・エーザイ・武州製薬など大手企業への導入が本格化。多品種中量生産ラインでの協働ロボットの有効性を実証。
  • 2020年代〜現在エディンバラ大学・東大松尾研との共同研究、エクサウィザーズとのAI統合、日本通運との遠隔操作実証を推進。

こうして生まれた産業用双腕ロボット「NEXTAGE」の基本思想は、ロボットによる全代替ではない。

我々の基本思想は、ロボットが全てを代替する、という楽観的なものではありません。「キツイ作業、大変な作業を、ロボットが4割、人が6割」といった比率で手伝ってくれる未来。それを目指してやってきました。

カワダロボティクス 新規事業開発担当

第2章:「協働ロボット」の先駆者として——現場のリアルと戦い続けた10年

NEXTAGE 協働ロボット 安全柵なし 2009年発売 カワダロボティクス 人とロボット共存

2009年当時、「協働ロボット」という言葉すら存在しない時代に安全柵なしの運用を実現したNEXTAGE。

今でこそ「協働ロボット(人と安全柵なしで一緒に働けるロボット)」という言葉は一般的だが、カワダロボティクスがNEXTAGEを世に出したのは、その概念が定着するはるか前、2009年のことだ。

当時はまだ「協働ロボット」という言葉すらなかった時代です。我々は、低出力のモーターを採用し、リスクアセスメントを徹底すれば日本でも安全柵なしで運用できる、と主張し、それを実践してきました。誰よりも早く、安全柵を撤廃し、人の隣でロボットを働かせることに挑戦してきたのです。

カワダロボティクス 新規事業開発担当

なぜ「人型」なのか——日本の製造現場という特殊環境

コンセプトは「人のサイズで作る」こと。これに尽きます。日本の工場は、通路も狭く、スペースが限られています。既存の生産ラインにおいて、人が立っていた「一人分のスペース」にそのまま収まること。これが、多くの現場から支持された最大の理由でした。

カワダロボティクス 新規事業開発担当
設計コンセプト人のサイズ・人のスペース
安全性安全柵なし(協働運転)
腕の構成双腕(6軸×2)
強み多能工化・品種替え対応
市場投入2009年(業界最初期)
連携先花王・エーザイ・武州製薬等

導入事例——現場が証明した「人型」の真価

NEXTAGE 埼玉県電機メーカー工場 多能工化 シール貼り 部品組付け ネジ締め グランザピー 協働ロボット

埼玉県の電機工場での導入事例。ハンドを自動交換しシール貼り・部品組付け・ネジ締めを一台でこなす「多能工ロボット」として愛称「グランザピー」と呼ばれ親しまれている。
🏭
電機業界・埼玉県工場——「グランザピー」という愛称が生まれた多能工化の現場
ハンド自動交換による多工程対応

ハンド(手先)を巧みに自動交換しながら、シール貼り・部品の組み付け・ネジ締めと、一人で何役もこなす。現場の生産技術担当者がオリジナルのハンドツールを多数開発し、「グランザピー」という愛称までつけて可愛がっている。最終工程の官能検査(人間の五感による検査)だけを人間が担うという、人とロボットの理想的な分業が実現している。

🧴
花王——24時間365日稼働ライン、数年連続ノンストップ稼働の実績
多品種中量生産ラインでのロボット稼働

超高速の大量生産ラインではなく、多品種を扱う「中量中品種」ラインでNEXTAGEは真価を発揮する。花王の厳しい品質基準をクリアし、数年以上ノンストップ稼働を継続中。ロボット自らが「爪」を交換し、大きなキャップ・小さなキャップと品種替えに自律対応する仕組みは、品種変更が頻繁な日用品生産ラインの課題を直撃した。業界全体への説得力という意味でも大きなマイルストーンとなった。

💊
エーザイ——研究開発現場の「土日呼び出し」問題をロボットが解消
医薬品研究開発における繰り返し実験の自動化

研究開発現場で、ロボットがひたすら実験を繰り返す。人間が行うとバラつきが出やすい実験作業を安定品質で24時間継続できるだけでなく、「土日に実験のために呼び出される」という研究者のブラック問題も解消する。単なる省人化ではなく、働き方改革という文脈での導入が評価されている。

🏥
武州製薬——「5年後に面倒を見る人材がいなくなる」という危機感が決断を促した
ジェネリック医薬品受託製造工場の人手不足対策

地域の工場では人が集まらなくなっており、人手による作業をロボットに置き換えることが急務となっていた。この事例が示すのは業界全体のトレンドだと登壇者は強調した。

NEXTAGE 花王 日用品生産ライン 多品種対応 爪自動交換 協働ロボット 品種替え

花王の生産ラインでの稼働事例。品種替えへの自律対応が多品種中量生産の課題を解決した。

最近は、「多少コストがかかってもいい、今ロボットの面倒を見られる人材がいるうちに導入を始めないと、5年後、10年後に事業が継続できない」という強い危機感を持った企業が増えています。

カワダロボティクス 新規事業開発担当
💡 LIF Tech編集部の考察

「コストがかかってもいい、今導入しないと5年後に人材がいなくなる」という危機感は、製造業に限った話ではない。医療・介護・物流・建設など日本の主要産業が同じ構造課題を抱えており、ロボット導入の意思決定が「ROI計算の問題」から「経営継続性の問題」へとシフトしていることを、この事例は如実に示している。

NEXTAGE 医薬品業界 エーザイ 武州製薬 研究実験自動化 省人化 人手不足対策

医薬品業界での活用事例。研究開発の繰り返し実験自動化から、製造ラインの省人化まで幅広く展開されている。
NEXTAGE 導入パッケージ 箱詰め工程 標準化 協働ロボット 導入ハードル低減

箱詰めなどの標準工程のパッケージ化も推進。導入ハードルを下げる取り組みが採用拡大を後押しする。

第3章:未来への投資——AI・遠隔操作・オープンイノベーション

カワダロボティクス オープンイノベーション エディンバラ大学 東京大学松尾研究室 AI ロボット連携

エディンバラ大学・東大松尾研究室との連携。ハードウェアメーカーの枠を超えたオープンイノベーション戦略が加速している。

セミナーの後半は「未来への投資」に費やされた。カワダロボティクスは、ハードウェアメーカーの枠を超え、積極的に外部の知見を取り入れるオープンイノベーション戦略を鮮明にしている。

我々一社ではやりきれないことも多い。だからこそ、オープンイノベーションが重要になります。

カワダロボティクス 新規事業開発担当

AIが「職人技」を超えた瞬間——粉体秤量0.01g精度の衝撃

🎯 粉体秤量の精度実績

最初はまったく精度が出なかった。しかしAIに学習させることで、人間が目分量で「エイヤッ」とすくうような感覚を再現できるようになった。現在の精度は2グラム狙いで1.99グラム。登壇者自身より「よっぽど上手い」と笑いながら語った。この技術はすでに材料開発の実験現場などで実用化が始まっている。

0.01g粉体秤量の精度
(目標2gに対し1.99g)
24h安定した品質での
連続稼働時間
複数実用化済みの
実験現場

この技術の意義は単なる精度の話ではない。職人技と呼ばれた「感覚的な作業」をAIが再現できるようになったことは、これまでロボット化が困難とされていた工程への適用可能性を大きく広げる。材料開発の実験現場での実用化は、医薬・食品・化学素材業界への横展開を示唆している。

川田グループだからできる「現場実証」——グループ内での危機感が推進力

歩かなくてもいい程度の距離から、テレワークで検査作業などを行う。建設業を抱える我々だからこそ、切実に自動化を進めなければならない領域です。

カワダロボティクス 新規事業開発担当
取り組み パートナー 内容 ステータス
AI×粉体秤量 エクサウィザーズ 性質の異なる粉を0.01g精度で自動計量。職人技の再現。 実用化済み
遠隔操作実証 日本通運(NX) 物流ハンドリングの遠隔操作。働く場所を選ばない新しい働き方。 実証実験完了
ロボット基盤研究 エディンバラ大学 最先端AI・ロボティクス研究のNEXTAGEへの実装 共同研究中
AI学習モデル 東大松尾研究室 大規模言語モデル×ロボット制御の融合研究 共同研究中
グループ内実証 川田グループ建設部門 建設現場の危険・きつい作業のロボット代替 実証進行中

結び:恐竜から始まった夢、人とロボットが隣り合う現実へ

カワダロボティクス セミナー締めくくり 人とロボットの未来 ロボデックス2026 NEXTAGE 30年の軌跡

セミナーの締めくくり。「恐竜ロボットを見た子供が今うちに入ってくれる」というエピソードが、30年の軌跡を象徴していた。
📖 恐竜から始まった夢

うちは本当に、長いことヒューマノイドばかりやってきた変な会社なんです。昔、愛知万博で恐竜ロボットの足の展示をお手伝いしたことがあるんですが、当時それを見に来ていた子供が、今、うちの会社に入ってきてくれたりするんですよ。

LIF Tech編集部の総括

カワダロボティクスが第10回ロボデックスで示したのは、単なる技術の展示ではない。橋梁メーカーの片隅で生まれた人型ロボットへの情熱が、30年かけて日本の製造現場に根を張った現実だ。

「コストがかかっても今やらないと5年後に手遅れになる」という危機感は、製造業にとどまらない。物流・医療・建設・介護——日本の主要産業が共通して直面する人手不足という構造問題に対して、「4割ロボット・6割人間」という現実的な解を出し続けてきた企業の言葉には、説得力がある。

愛知万博の恐竜ロボットを見た子供が、今その会社で働いている——この話が象徴するのは、テクノロジーへの投資は世代をまたいで回収されるということだ。日本のものづくりを残すという使命と、ロボットを愛する技術者たちの夢が交差した場所に、NEXTAGEという解答がある。

LIF Techではこの領域の実務事例を今後も発信していきます。

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