オンラインマーケティングとAIの巨大アップデート」―― Googleの新規格「UCP」と新機能「AI Max」が告げる、”Agentic Shopping(代理購入)”時代の幕開け

序章:AIは「使う」段階から「任せる」段階へ

2026年1月29日、ドイツ・ケルン。 「Stop the Bullshit」で現状の整理とマインドセットの修正を終えたBLOO:CON 2026。続く後半のセッション(午前10時~10時45分)では、会場の空気が一変しました。前半の「冷静な分析」から、**「目前に迫る危機と好機への没入」**へとシフトしたのです。

テーマは**「Big Updates in Online Marketing & AI(オンラインマーケティングとAIの巨大アップデート)」**。

ここでは、否定すべき流行語ではなく、**「今すぐキャッチアップしなければ、2027年には市場から退場させられる」**レベルの具体的な技術トレンドと、プラットフォーマー(Google、OpenAI、Meta)の最新仕様が共有されました。

Bloofusionの専門家たちが提示したのは、単なる機能追加の話ではありません。「人間が検索してモノを買う」という、過去25年間続いたインターネットの常識が崩壊し、**「AIエージェントが人間の代わりにモノを選び、買う」**という新時代への移行宣言でした。

本レポートでは、議事録に残された**「AI Max」「Universal Commerce Protocol (UCP)」「Agentic Shopping」「Model Context Protocol (MCP)」**という4つのキーワードを核に、2026年のマーケティングランドスケープを完全解説します。

資料解説:https://lifrell-tech.com/wp-content/uploads/2026/01/AI_Agent_Commerce_2026.pdf


第1章:Google広告25年目の革命 ―― 新機能「AI Max」の正体

1. P-Maxとは違う、検索広告の「最終進化形」

SEA(検索連動型広告)責任者のMartin Röttgerding氏は、Google広告の25周年(2000年のAdWords開始から数えて)を祝うとともに、検索キャンペーンにおける最大のアップデートとして**「AI Max」**を発表・解説しました。

多くのマーケターが「P-Max(Performance Max)」と混同していますが、これは全く別のプロダクトであり、その役割も異なります。

  • P-Max(パフォーマンス最大化): Googleの全在庫(YouTube, Discover, Gmail, Maps, Search)に対して、面を横断して配信する「ブラックボックス型」の自動化パッケージ。クリエイティブと予算を渡せば、あとはAIが勝手に配信面を選びます。
  • AI Max(エーアイ・マックス): あくまで**「検索キャンペーン(Search Campaigns)」の枠組みの中**で機能する、AI駆動型の最適化エンジンです。従来の「レスポンシブ検索広告(RSA)」と「部分一致(Broad Match)」、「スマート自動入札」を統合し、さらに生成AIの力を注入したものです。

2. キーワードは「設定」するものではなく「生成」されるものへ

Martin氏は、「AI Maxは、人間が思いつかないロングテールキーワードを拾うための最強のツールだ」と評価します。

これまでの検索広告運用は、人間が「キーワード」を考え、登録し、マッチタイプを調整する作業でした。しかし、AI Maxの世界では、プロセスが逆転します。 広告主は、キーワードではなく**「ランディングページ(LP)」「ビジネス目標(CPA/ROAS)」、そして「ブランドのトーン&マナー(アセット)」**をAIに入力します。

すると、GoogleのGeminiモデルをベースにしたAIが、ユーザーの検索意図(インテント)をリアルタイムで解析し、**「その瞬間のそのユーザーにしか刺さらない広告見出し」「検索キーワード」**を動的に生成・マッチングさせます。

3. 「除外」こそが人間の仕事

「AI Maxにおいて、人間がやるべき最大の仕事は『アクセル』を踏むことではない。『ブレーキ』を踏むことだ」とMartin氏は強調します。

AIは放っておくと、コンバージョンしやすい「指名キーワード(社名や商品名)」ばかりを取りに行ったり、文脈違いのキーワードに拡張しすぎたりするリスクがあります。 AI MaxはP-Maxと異なり、**「除外キーワード(Negative Keywords)」「ブランド除外設定」**が詳細にコントロール可能です。日本企業の運用者は、「何を売るか」以上に「何を売らないか」「どこには出さないか」というガードレールの設定に全精力を注ぐ必要があります。


第2章:概念崩壊 ―― “Agentic Shopping(代理購入)”の到来

1. 「人間が買わない」時代の幕開け

本カンファレンスで最も衝撃的だったのが、Martin氏とSEO担当のMarkus Hövener氏が共通して語った**「Agentic Shopping(エージェント・ショッピング)」**という概念です。

議事録にある「私はAIエージェントに『100ドルくらいの良いヘッドホンを買って』と言うだけでいい」という発言。これは、2026年現在の欧米における最先端の消費行動を象徴しています。

従来のEコマースは、以下のようなフローでした。

  1. ユーザーがGoogleで「おすすめ ヘッドホン」と検索する。
  2. 比較サイトやブログを読み、候補を絞る。
  3. Amazonや楽天に行き、価格とレビューを確認する。
  4. カートに入れ、決済情報を入力して購入する。

しかし、Agentic Shoppingではこうなります。

  1. ユーザーがスマホのAIアシスタントに**「予算1万円以内で、ノイズキャンセリングが強くて、私の好きなジャズに適したヘッドホンを選んで注文しておいて」**と話しかける。
  2. (完)

AIエージェントがバックグラウンドで複数のショップをクロールし、在庫を確認し、最適な商品をユーザーの好みに合わせて選定し、決済まで完了させます。ユーザーはWebサイトを見ることすらない「ゼロクリック・コマース」です。

2. 広告主にとっての「悪夢」と「好機」

これは、バナー広告やLPの情緒的なキャッチコピーで勝負してきたマーケターにとっては悪夢です。AIエージェントは「おしゃれなデザイン」も「感動的なストーリー」も(現時点では)評価基準の最上位には置きません。彼らが見るのは**「データ」**だけです。

  • スペックは要望に合致しているか?
  • 価格は適正か?(隠しコストはないか?)
  • 在庫は本当にあるか?
  • 配送は明日届くか?

Martin氏は警告します。 「Agentic Shoppingの時代に勝つのは、広告費を多く払った企業ではない。『正直で詳細なデータ』を提供し、AIからの信頼スコア(Trust Score)が高い企業だ


第3章:Google「Universal Commerce Protocol (UCP)」の衝撃

1. エージェント・コマースの標準規格

このAgentic Shoppingを実現するために、Googleが2026年1月に発表した(という設定の)新しいオープンスタンダードが**「Universal Commerce Protocol (UCP)」**です。

これまで、AI(ChatGPTやGemini)がユーザーの代わりに買い物をしようとしても、「ログインの壁」「決済の壁」「在庫情報の非リアルタイム性」が障壁となっていました。 UCPは、これらを解決するための統一規格です。

UCPが実現する世界観:

  • 標準化されたカタログ: どのECサイトもUCPに対応したデータフィードを持っていれば、あらゆるAIエージェントが商品の詳細スペックや在庫状況をリアルタイムに参照できる。
  • 標準化された決済: ユーザーがAIエージェントに一度クレジットカード情報を預けておけば、UCP対応サイトであればどこでも、AIが代理でセキュアに決済を行える。

2. 日本企業への示唆:AIに「読まれる」準備はできているか?

Markus氏は**「UCP対応は、AI時代のSEOだ」**と断言しました。 人間用のWebサイト(HTML)をいくらリッチにしても、UCPの構造化データが整備されていなければ、AIエージェントにとっては「存在しない店」と同じです。

日本企業が直ちに取り組むべきは、Google Merchant Center(GMC)の商品データフィードを、人間用ではなく**「AI用」にアップグレード**することです。

  • 商品画像の解像度はAI解析に耐えうるか?
  • サイズ、重量、材質などのスペック情報は、テキストではなく「属性データ」として構造化されているか?
  • 実店舗の在庫情報はリアルタイムで連携されているか?

これらが欠けていると、AIエージェントの「買い物リスト」から自社商品が除外されるリスクがあります。


第4章:社内データの革命 ―― 「Model Context Protocol (MCP)」

1. AIに「自社の脳」を接続する

SEOスペシャリストのMarkus Hövener氏は、UCPと並んで重要な技術として**「Model Context Protocol (MCP)」**にも言及しました。これはAnthropic社などが提唱する、AIモデルと外部データを接続するための規格です。

UCPが「社外(EC)」向けの規格なら、MCPは**「社内(ナレッジ)」向けの規格**と言えます。

「これまでAIは『記憶喪失の天才』だった。毎回プロンプトでゼロから教えなければならなかった。しかしMCPは、AIにとっての『USBポート』だ。企業の社内Wiki、顧客データベース、商品マニュアルをMCP経由でAIに接続するだけで、AIはその企業の専門家になれる」

2. 日本企業への示唆:カスタマーサポートの革命

MCPを活用すれば、自社のAIエージェントが、膨大な社内マニュアルや過去の問い合わせ履歴、リアルタイムの在庫DBを瞬時に参照し、顧客に対して正確な回答を返すことが可能になります。

Markus氏は**「MCPサーバーは自分のサーバーだ(MCP Server is your server)」**と発言しました。これは、プラットフォーム(ChatGPTやGoogle)に自社データをアップロードして学習させるのではなく、自社管理下のサーバーにAIを「接続させる」形をとることで、セキュリティとデータ主権を守る重要性を示唆しています。


第5章:Soraと動画生成 ―― 「無限生成」と「ブランドセーフティ」

1. クリエイティブのコスト構造崩壊

Social担当のLisa-Marie Drinkus氏は、OpenAIの動画生成AI「Sora」やGoogleの「Veo」がもたらした破壊的な変化について語りました。

「これまでは1本の動画広告を作るのに数週間、数百万円かかっていた。今は、プロンプト一つで10パターンの動画バリエーションが、ランチを食べている間に生成できる。コストはほぼゼロになった」

しかし、これは「誰でも高品質な動画が作れる」ことを意味し、タイムラインはAI生成動画で溢れかえることになります。

2. 「AI Fatigue(AI疲れ)」と「人間味」への回帰

Lisa氏は、視聴者が既に**「完璧すぎるAI動画」に飽き始めている**と指摘します。 「AIが作った動画は、光の当たり方が完璧すぎて、どこか冷たい。B2Bにおいて信頼を勝ち取るのは、Soraで作った美麗なコンセプトムービーではなく、現場のエンジニアがスマホで撮った、手ブレのある解説動画かもしれない」

AIは「量」を担保するために使い、人間は「質」と「熱量」を担保するために使う。このハイブリッドなワークフローが2026年の正解です。また、生成AIによる著作権侵害や、意図しない不適切な表現(Hallucination)を防ぐための、人間による厳格なチェック体制(Brand Safety)も必須となります。


第6章:アナリティクスの進化 ―― “AI Tracking”と未来予測

1. 過去を見るな、未来を見ろ

Maximilian Geisler氏(Analytics担当)は、GA4のその先にある「予測分析(Predictive Analytics)」について語りました。

「従来のアナリティクスは『先月何が起きたか』を報告するバックミラーだった。2026年のアナリティクスは**『来週何が起きるか』を教えるナビゲーションシステム**だ」

GoogleのAIは、過去の膨大なコンバージョンデータとWeb上の行動シグナルから、特定のユーザーが「今後7日以内に購入する確率(Purchase Probability)」や「離反する確率(Churn Probability)」を個別にスコアリングします。 マーケターはこのスコアが高いユーザーリスト(Predictive Audiences)に対してのみ、リターゲティング広告を配信したり、離反しそうなユーザーにクーポンを送ったりすることで、CPA(獲得単価)を劇的に下げることができます。

2. AIによる「異常検知」という番犬

また、Maximilian氏は「AIによるモニタリング」の重要性も説いています。 「サイトのコンバージョン率(CVR)が急落したとき、人間がレポートを見て気づくには数日かかることもある。AIなら数分で異常を検知し、その原因がサーバーダウンなのか、広告設定のミスなのか、競合のセール開始なのかまで推測してアラートを出してくれる」

データ量が爆発的に増え、人間がすべてを目視確認できなくなった2026年において、この「AI番犬」の導入は必須要件です。


第7章:日本企業への完全アクションリスト ―― 2026年を生き抜くために

Bloofusionの4人が示した2026年のアップデートに基づき、日本のマーケターが明日から取り組むべきアクションプランを、緊急度順にまとめます。

1. 【即時・緊急】「人間用SEO」から「AI用SEO(UCP対応)」へのシフト

AIエージェントに「発見」され、「選ばれる」ために、自社の商品データを構造化データ(Schema.org)とGoogle Merchant Centerで完璧に整備してください。

  • 商品データフィードの項目(属性)充足率を100%にする。
  • 価格、在庫、配送情報のリアルタイム連携APIを構築する。

2. 【短期】Google広告「AI Max」への移行と教育

検索キャンペーンの一部を「AI Max」に移行し、AIの挙動をテストしてください。ただし、丸投げは厳禁です。

  • 「利益(粗利)」データをコンバージョン値としてインポートする。
  • 除外キーワードリストを徹底的に整備し、AIの暴走を防ぐ。

3. 【中期】社内データのMCP化とエージェント活用

社内データをAIに安全に接続するためのMCPについて、情報システム部門と連携して実装を開始してください。まずは社内ヘルプデスクやナレッジベースから始め、将来的には顧客向けの購買エージェントへと発展させます。

4. 【恒久】「人間味(Humanity)」への投資

AIがコンテンツを無限に量産できるからこそ、相対的に希少価値が高まるのは「生身の体験」と「信頼」です。デジタルで効率化したリソースを、イベント、実店舗での接客、社員の顔が見える発信など、アナログな信頼構築に再投資してください。


結論:AIは「魔法」ではなく「新たな顧客」である

「オンラインマーケティングとAIの大きなアップデート」セッションは、単なる新機能の紹介に留まらず、商流そのもののパラダイムシフトを突きつけるものでした。

「人間が検索して、比較して、クリックする」という人間主体のウェブ行動は、2026年を境に終わりを迎えます。 「人間がAIに頼み、AIが探し、AIが提案(あるいは購入)する」というエージェント主体のウェブへ。

この変化を理解し、AIを「業務効率化のツール」としてだけでなく、**「自社の情報を正しく伝えるべき新たな顧客(エージェント)」**として捉え直すこと。それこそが、2026年以降を生き抜く日本企業の唯一の生存戦略となるでしょう。

(c) Bloofusion Germany GmbH / Report generated for Japanese Marketers / LIF Tech

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