アルゴリズムの奴隷になるな。「クリエイティブ・インテリジェンス」でMeta広告を完全攻略する週15本の制作メソッド

Liftech 編集長レポート Based on Session at Affiliate World / Speaker: Chris Erthel (CEO, Uplift)


目次

はじめに:なぜ今、「クリエイティブ」が唯一の勝機なのか

我々マーケターは長い間、プラットフォームの「管理画面」と戦ってきました。誰に、いつ、どのような入札単価で広告を出すか。この「設定」の妙こそがマーケターの腕の見せ所だと信じられてきました。

しかし、その時代は終わりました。

Meta(Facebook/Instagram)のAdvantage+をはじめとするAIアルゴリズムの進化は、我々から「ターゲティングの主導権」を奪いました。今や、アルゴリズムは人間よりも正確に「買う人」を見つけ出します。では、我々人間に残されたレバレッジポイント(テコの原理が働く場所)はどこか?

それこそが**「クリエイティブ(広告素材)」**です。

今回、バンコクで開催された「Affiliate World」にて、11年間で142社のグロースを支援し、3,500回以上のA/Bテストを繰り返してきた「クリエイティブ・インテリジェンス」の第一人者、Chris Erthel氏が登壇しました。彼のクライアントの多くは、年商数億円〜数百億円規模でイグジット(売却)に成功しています。

本レポートでは、彼が語った「勝率を高めるための残酷なまでの物量作戦」と、それを少人数で実現するための「AI活用術」、そして顧客の心理をハックする「ブランド構築の科学」を、日本の文脈に合わせて徹底解説します。


第1章:成功の方程式は「失敗の数」で決まる ~週15本制作の衝撃~

1-1. 「スマートな失敗」が勝利への唯一の道

Chris氏は壇上でこう語りかけました。「成功している起業家の共通点は何か? それは、誰よりも多く失敗していることだ」。

彼は自身の最初の6つの事業を潰しています。しかし、その過程で「高速で、安価に失敗する」ことの重要性を学びました。マーケティングにおける失敗とは、すなわち「反応の取れない広告を作ること」です。しかし、その失敗データこそが、次の「当たり」を生むための羅針盤となります。

1-2. 大手も中小も守るべき「週15本の鉄則」

本セッションで最も会場がざわついた瞬間、それは彼が「具体的な制作本数」を提示した時でした。

  • 大手クライアント:週に140本の新規クリエイティブを投入
  • 中小・スタートアップ:最低でも週に15本の新規クリエイティブを投入

「週に15本も作れない」と思いましたか? しかし、年商100万ドル(約1.5億円)を超えている彼のクライアントは、例外なくこの数字を守っています。 Metaのアルゴリズムは常に「新しい刺激」を求めています。同じ広告クリエイティブの寿命は、かつてないほど短くなっています。常に新しい燃料を投下し続けなければ、CPA(獲得単価)は高騰し、売上はシュリンクします。これが現代のゲームのルールです。

1-3. リソース配分の黄金比「60:40」

では、週15本をどう内訳するか。彼は明確なガイドラインを示しています。

  • 60%:静止画(Images)
    • 役割: アイデアの検証、クリック率(CTR)の向上。
    • メリット: 制作コストが圧倒的に低い。CanvaやPhotoshopで量産が可能。
  • 40%:動画(Videos/Reels)
    • 役割: コンバージョン率(CVR)の向上、ストーリーテリング。
    • メリット: 商品の質感や使用感を伝え、購入への納得感を醸成する。

多くのマーケターが「動画の時代だ」と言って動画ばかり作ろうとしますが、それは間違いです。静止画は「高速なテスト」に向いています。静止画で当たった訴求(キャッチコピーや画像選定)を、動画にリメイクして本腰を入れて獲得を狙う。このサイクルこそが最も効率的です。

1-4. ネタ切れを防ぐ「3つの源泉」

週15本を作り続けると、必ず「ネタ切れ」に直面します。Chris氏はクリエイティブの源泉を以下の3つに分類しています。

  1. イテレーション(改善・派生):全体の8割
    • 過去に当たったクリエイティブの一部を変える。背景色を変える、冒頭の3秒を変える、見出しの文言を変える。これだけで「新クリエイティブ」としてカウントできます。
  2. 完全新規(New Idea):全体の1割
    • 「フライトモード」にして外部情報を遮断し、真っ白なキャンバスに向かう時間。既存の延長線上にはない、突飛なアイデアを形にします。
  3. 競合分析(Competitors):全体の1割
    • Facebook広告ライブラリやTikTokのCreative Centerを見て、他社が何で勝っているかを分析する。丸パクリではなく「構造(フォーマット)」を借ります。

第2章:顧客心理をハックする「信頼」と「感情」の科学

ただ量産すればいいわけではありません。売れる広告には、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが提唱した「弁論術の3要素」が含まれているとChris氏は説きます。

  • Logos(論理)
  • Ethos(信頼)
  • Pathos(感情)

現代のデジタル広告、特にD2CやEコマースにおいて、彼が最も重要視するのが**「Ethos(信頼)」「Pathos(感情)」**です。

2-1. 【Ethos】「ホワイトハット」で攻める信頼構築

怪しい広告が溢れるフィードの中で、「正しさ(Whitehat)」はそれだけで差別化になります。

  • Trustpilot(第三者レビュー)の活用
    • 自社サイトの手前味噌な「お客様の声」は信じられません。Trustpilotのような第三者機関のロゴとスコアを、広告クリエイティブやLPのファーストビュー(左上など目立つ場所)に配置してください。
    • 「悪いレビュー」こそ武器になる: Chris氏が支援したある美容ブランド(鼻パック)は、効果が出るまで時間がかかるため「詐欺だ」という低評価を受けていました。彼らはそれを隠さず、「お客様の声を真摯に受け止め、使用マニュアルを改善しました」と広告で発信しました。結果、信頼度が爆上がりし、LTVが向上しました。
  • 「ブラックフライデー」から「ブラックマンス」へ
    • ブラックフライデーの数日間だけ安売りをすると、ユーザーは「待つ」ようになり、ブランド価値も毀損します。
    • 彼が推奨するのは「Black Month(11月はずっとお祭り)」です。「1年で一番安いのはこの1ヶ月だけ」と宣言し、早めにセールを開始する。これにより、競合がCPM(広告配信単価)を高騰させる前に、安価に顧客を獲得できます。

2-2. 【Pathos】画面越しに「五感」を刺激する

オンライン通販の最大の弱点は「触れない」「匂わない」ことです。これをクリエイティブで突破します。

  • 触覚の再現(カーディガンの事例)
    • 「柔らかい」と文字で書くのではなく、インフルエンサーが頬に生地をすり寄せてうっとりする表情を見せる。生地のアップをスローモーションで見せる。これで脳に「触感」を錯覚させます。
  • ソーシャルグッド(WFPとの連携)
    • 「この商品を買えば、世界の飢餓に苦しむ子供に給食を1食届けられます」。
    • これは単なる寄付ではありません。購入者に「消費の正当性(言い訳)」を与える強力なPathos(感情)へのアプローチです。「無駄遣いではなく、良いことをした」と思わせることで、コンバージョン率は劇的に向上します。

第3章:明日から使える「勝ちクリエイティブ」3つの鉄板フォーマット

Chris氏が数千回のテストを経て「これは鉄板だ」と断言するフォーマットを3つ紹介します。これらは日本市場でも応用可能です。

3-1. ストリート・インタビュー(The 3 Words)

街ゆく人にマイクを向け、「このブランドを3つの単語で表すと?」と聞くスタイルです。

  • なぜ効くのか?
    • 企業側からの一方的なメッセージではなく、第三者の「生の声(UGC)」として認識されるため、広告への警戒心(ガード)が下がります。
    • Chris氏の事例では、ベルリンのブランドでこのフォーマットを採用し、ROAS(広告費用対効果)3.8倍を記録しました。
  • 日本での応用:
    • 渋谷や表参道で実施するイメージです。また、日本では少しバラエティ番組風のテロップを入れると、より「コンテンツ」として馴染みやすくなります。

3-2. スニーキングUSP(日常に潜ませる強み)

日常的な行動(コーヒーを入れる、髪をとかす等)の動画の中に、違和感なく商品のUSP(独自の売り)を忍ばせます。

  • 事例:
    • コーヒーにミルクを注ぐ何気ないリール動画。しかし、ミルクが沸騰する一瞬だけ「特許技術の泡立ち」というテキストがポンと出る。
    • 冒頭2秒は「美しい映像(High Contrast)」で目を引くことが重要です。広告だと気づかれる前に、視覚的な快感で指を止めさせます。

3-3. SNSネイティブUI(フェイクUI)

InstagramのリールやTikTokのインターフェース(いいねボタン、コメントアイコン、音楽のバーなど)を、あらかじめ動画のデザインとして組み込んでおきます。

  • 効果:
    • ユーザーは無意識に「これは友人の投稿か、おすすめの投稿だ」と誤認します。広告だと認識されるまでの時間を数秒稼ぐことができれば、その間に冒頭のフックで心を掴むことができます。

第4章:たった数人で大手に勝つための「AIツールスタック」

「週15本も作れない」という反論に対するChris氏の答えはシンプルです。「AIを使え」。 彼は特定のツールに依存せず、適材適所でツールを組み合わせる「スイスアーミーナイフ(万能ナイフ)」のような運用を推奨しています。

4-1. 【脳みその拡張】Poppy AI(LLMアグリゲーター)

ChatGPTだけに頼っていませんか? Chris氏は**「Poppy AI」**というツールを紹介しました。これは、Claude、ChatGPT、Geminiなどの複数の大規模言語モデル(LLM)を束ねて使えるツールです。

  • 具体的な使い方:
    • 過去に成果が出なかった広告のスクリプトを読み込ませる。
    • 「なぜこれが失敗したのか? 共通点を見つけろ」と各AIに分析させる。
    • 逆に、成功した広告の共通点を抽出させ、新しい脚本を書かせる。
    • ポイント: マーケティングのコピーライティングにおいては、ChatGPTよりも**Claude(Anthropic社)**の方が、人間らしく自然なニュアンスを出す傾向にあります。

4-2. 【手足の拡張】V(V.ai / V-make)

ここが最も革新的です。**V(ブイ)**というツールを使えば、ノーコードで生成AIのワークフローを自動化できます。

  • 驚異の自動化フロー:
    1. テキストプロンプトを入力(例:「バナナの画像を生成」)。
    2. 画像生成AIが画像を書き出す。
    3. それを動画生成AI(Runwayなど)に渡し、動かす。
    4. 音声生成AI(ElevenLabs)でナレーションをつける。
    5. 高画質化AI(Topaz)で解像度を上げる。
    • これら全てを、別のサイトを行き来することなく、一つの画面上でドラッグ&ドロップで繋ぎ合わせることができます。
    • Chris氏は「祖母の家で、深夜2時までこのツールで遊んでクリエイティブを量産していた」と語りました。エンジニアでなくとも、自分だけの「制作スタジオ」を持てる時代なのです。

4-3. 【利益の最大化】Omnisend(オムニセンド)

Meta広告で集めた顧客を、いかにリピーターにするか。彼はOmnisendへの移行を推奨しています。

  • なぜOmnisendか?
    • Eメールだけでなく、SMS(ショートメッセージ)やWhatsAppなどを統合して管理できる「オムニチャネル」なCRMツールです。
    • Chris氏のクライアントは、Omnisendを活用したリテンション施策で、ROI(投資対効果)60倍以上という驚異的な数字を叩き出しています。広告は「きっかけ」に過ぎず、利益はCRMから生まれます。

第5章:日本市場で実践するための「ローカライズ戦略」

海外の最新ノウハウをそのまま日本に持ち込んでも失敗します。Liftech編集部として、日本市場特有の文脈に合わせた変換ポイントを提案します。

5-1. 「信頼(Trust)」の日本的解釈

欧米ではTrustpilotが絶対的な権威を持ちますが、日本ではまだ浸透していません。日本で「Ethos(信頼)」を担保するものは以下の3つです。

  1. ランキングNo.1の称号: 楽天ランキング、@cosme、Amazon売れ筋ランキングなど。「みんなが選んでいる」という事実は、日本において最強の信頼シグナルです。
  2. 専門家の権威: 医師、管理栄養士、美容家などの監修。実名と顔写真が必要です。
  3. 丁寧すぎる顧客対応: Chris氏が挙げた「悪いレビューへの返信」は、日本では特に効果的です。「お客様の声を受けて、パッケージをこう改良しました」というストーリーをLP(ランディングページ)の冒頭に持ってくると、コンバージョン率が上がります。

5-2. クリエイティブの「湿度」を上げる

欧米の広告は「High Contrast(高コントラスト)」でパキッとした映像が好まれますが、日本では少し「湿度」のある、情緒的な表現が好まれる傾向があります。

  • 具体的アクション:
    • 生成AIで画像を作る際、あまりにCGっぽい完璧なライティングではなく、少し生活感のある「自然光」や「手作り感」を意識したプロンプトを入れること。
    • 動画のナレーションも、AI音声そのままだと冷たく感じる場合があるため、あえて「えーっと」などのフィラー(言い淀み)を入れたり、日本の声優データを使ったりして親近感を演出します。

第6章:編集長からのアクションプラン

本レポートを読み終えたあなたが、明日から実行すべき具体的なステップを提示します。

【STEP 1:マインドセットの変革(Day 1)】

  • チームへの宣言: 「これからは週に15本のクリエイティブを作る」と宣言してください。反発があるかもしれませんが、「AIを使うからリソースは増やさない」と付け加えましょう。
  • 失敗の許容: 「15本のうち14本は失敗してもいい。1本のホームランが出ればペイする」というルールを明確にします。

【STEP 2:環境構築(Day 2-3)】

  • ツールの導入:
    • 分析: Claude Pro(有料版)を契約し、自社の過去の当たり広告・負け広告のテキストデータを読み込ませて分析させる。
    • 制作: 画像生成(Midjourney等)と動画生成(Runway Gen-2等)のアカウントを開設。まずは静止画素材の背景を生成AIで作ることから始める。

【STEP 3:制作と実装(Day 4-7)】

  • 静止画9本、動画6本を作成:
    • 既存の当たり画像のキャッチコピーを変えたものを5本。
    • 背景を変えたものを4本。
    • スマホで撮影した「商品を使っている手元動画」に、AIナレーションをつけたものを6本。
  • 「3語インタビュー」の日本版を企画:
    • 社員や友人に協力してもらい、iPhoneで撮影。「この商品を3つの言葉で言うと?」という動画をテスト的に作る。

【おわりに】

Chris氏は講演の最後をこう締めくくりました。 「長期的なゲームをプレイしよう。短期的なハックではなく、長く愛されるブランドを作るためにクリエイティブを使おう」

週15本という数字は、単なるノルマではありません。それは、顧客と対話し、理解しようとする「試行錯誤の回数」です。 AIという強力な武器を手に入れた今、リソース不足は言い訳になりません。まずは今週末、1本の新しい動画をiPhoneで撮影することから始めてみてください。それが、あなたのビジネスを次のステージへ押し上げる第一歩となります。

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