「デジタルユーロは2029年、デジタルポンドもPOC完了 ―― では日本は?」ディーカレットDCP平子惠生が突きつけた、”デジタル円不在”の現実と世界の加速度

目次

―― デジタル通貨カンファレンス 2026|プレゼンテーション「デジタルマネーの世界的な潮流」全記録

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序章:世界は「商用化スケジュール」を発表している。日本だけが、まだ白紙だ

2026年2月24日、東京・JPタワー ホール&カンファレンス。

「デジタル通貨カンファレンス 2026 — FUTURE OF DIGITAL MONEY」のオープニングセッションに続くプレゼンテーションの壇上に立ったのは、株式会社ディーカレットDCP 取締役副社長執行役員COOの**平子惠生(Hirako Yoshio)**氏。

20分という限られた持ち時間で、平子氏は会場にある種の「焦燥感」を植え付けました。欧州は2029年にデジタルユーロの商用化を宣言している。イギリスは中央銀行と大手銀行の共同で銀行間決済のPOC(概念実証)をすでに走らせている。米国ではJPモルガン、シティを筆頭にトークン化預金の実装が猛烈な勢いで進んでいる。

翻って日本は ―― 「まだどちらに舵を切るのか、様子見」。

この事実の対比は、静かに、しかし確実に、会場の空気を変えました。


第1章:「デジタルマネー」とは何か ―― 広義と狭義の整理

平子氏はまず、議論の土台を丁寧に整理するところから始めました。

「デジタルマネーとは何か、という定義がそもそも曖昧なままでは、議論が噛み合いません」

広義のデジタルマネーには、SuicaやPayPayといった電子マネー、さらにはビットコインやイーサリアムなどの暗号資産も含まれます。しかし今回のカンファレンスが焦点を当てるのは、狭義のデジタル通貨 ―― すなわち、CBDC(中央銀行デジタル通貨)、ステーブルコイン、トークン化預金の3つです。

これらに共通する特徴は2つ。第一に「プログラマブル(プログラムで自動的に動く)」であること。第二に、ビットコインやイーサリアムのような暗号資産と比べて「価値が安定している」こと。この2つの性質が、実体経済への応用を可能にする鍵だと平子氏は位置づけました。


第2章:既存決済との決定的な差 ―― 「先人が築いた便利さ」のコスト問題

平子氏は、日本の既存決済インフラに対して敬意を払いつつも、その構造的な限界を指摘しました。

「日本の決済手段は非常に便利です。全銀ネットの振り込み、口座振替、カード決済 ―― これらは先人の皆様が、膨大な努力とコストと投資をかけて築いてきたネットワークの上で動いています」

しかし、その「便利さ」には相応のコストが伴います。レガシーシステムの運用コスト、バージョンアップ、拡張、保守 ―― これらすべてが決済コストに上乗せされている構造です。

「ブロックチェーン上のデジタル通貨は、レガシーシステムに比べてコストは相当程度低い。運用コストだけでなく、その後の改修やバージョンアップ、拡張も含めて、トランザクションコストを大きく下げることができると我々は考えています」

デジタル通貨の優位性として平子氏が挙げたのは、プログラマビリティ(自動執行)、24時間365日の即時決済、そしてスマートコントラクトによる条件付き決済です。これらは従来の決済手段では実現が困難だった機能であり、まさにデジタル通貨だからこそ可能になる領域です。


第3章:ステーブルコインの「爆発的成長」―― 数字が語る現実

プレゼンテーションのスクリーンに映し出されたグラフは、会場に衝撃を与えました。ステーブルコインの時価総額が、文字通り「爆発的」に増加しているのです。

「青がUSDT(テザー)、赤がUSDC(サークル)、緑がその他ですが、ものすごい勢いでUSドル建てのステーブルコインが増えています」

この急成長の背景には、米国における「Genius Act」の成立があります。裏付け資産の健全性を法的に義務付けるこの法律が、機関投資家の参入障壁を下げ、DeFi(分散型金融)やクロスボーダー送金におけるステーブルコインの活用を一気に加速させました。

平子氏は、このグラフが示す意味を冷静に読み解きます。デジタルマネーの主戦場は、もはや「理論」や「実験」の段階ではない。巨額の資金が実際にオンチェーンで動いている ―― それが2025年から2026年の現実なのだと。


第4章:世界各国の「選択」―― ステーブルコイン派 vs トークン化預金派

平子氏のプレゼンテーションで最も示唆に富んでいたのは、各国のデジタルマネー戦略を「ステーブルコイン推し」と「トークン化預金推し」に分類した俯瞰図でした。

欧州:トークン化預金+CBDCルート

欧州中央銀行(ECB)は「デジタルユーロ」の導入を2029年目標で進めています。英国もイングランド銀行が大手銀行と共同で「GBTD(Government-Backed Tokenized Deposit)」の銀行間決済POCを実施済みで、同じく2029年の商用化を見据えています。

欧州のアプローチは明確です。中央銀行が主導し、既存の銀行システムの延長線上にデジタル通貨を位置づける ―― トークン化預金路線です。

米国:ステーブルコイン+民間主導トークン化

米国は反CBDC・ステーブルコイン推進の姿勢を鮮明にしています。しかし、民間セクターではJPモルガン、シティなどの大手銀行がステーブルコインではなくトークン化預金を軸に、大企業向けの決済やキャッシュマネジメントサービスを展開しています。

さらに、Ondo Financeのような新興企業がMMF(マネー・マーケット・ファンド)や証券のトークン化を猛烈な勢いで推進。フィンテック企業が中央銀行の口座を開設し、銀行間決済に参入する動きまで出ています。

「米国では、デジタルドルについてはもうレディな状態なんじゃないかなと思っています」と平子氏は分析しました。

中国:CBDC先行 → 民間開放へピボット

中国はCBDCを世界に先駆けて導入しましたが、2025年には発行権を民間銀行に開放する方針転換を行いました。中央集権型から分散型への移行という、注目すべき戦略転換です。

日本:「どちらともつかず」

そして日本。平子氏の言葉は率直でした。

「日本では、まだどちらの方に舵を切るのかというのを様子見 ―― と言ったら語弊がありますけれども、ステーブルコインもやるし、トークン化預金も頑張れ、といったような状況かと認識しております」

JPYCによるステーブルコインの実用化は始まっているものの、CBDCフォーラムでの議論はまだ続いており、マスタースケジュールも明確な方向性も示されていない。欧米が2029年の商用化ロードマップを公表している中で、日本だけが白紙の状態 ―― この対比は、会場に重い問いを投げかけました。


第5章:なぜ今、米国がトークナイゼーションに「本気」なのか ―― 3つの推進力

平子氏は、米国におけるトークナイゼーション加速の背景に3つの要因を指摘しました。

推進力1:AIサービスとの融合

「プログラムで自動的に動く」というブロックチェーン上のデジタル通貨の特徴は、AI との親和性が極めて高い。

「AIが最適なアロケーションを計算して、自動的に資金の割り振りをする。自動的に決済や送金、入金の指示を出す。これは金融市場のみならず、事業会社のオペレーションにも極めて有効です」

平子氏は、プログラマブルマネーの「プログラム」をそのまま「AI」に置き換えても成立すると指摘。AI×デジタル通貨の組み合わせこそが、トークナイゼーション加速の最大の推進力だとの見方を示しました。

推進力2:規制環境の整備

Genius Actに代表される法整備が、市場参加者に明確なルールと安心感を提供しています。

推進力3:技術の成熟

ブロックチェーン基盤の性能向上、スマートコントラクトの信頼性向上、そしてクロスチェーンの相互運用性の改善が、実装レベルでのハードルを大幅に下げています。


第6章:ディーカレットDCPの戦略 ―― 「銀行間決済」の実現なくして日本のデジタル通貨はない

プレゼンテーションの終盤、平子氏は自社の戦略に触れました。時間の制約から駆け足にはなりましたが、その核心は明確でした。

ディーカレットDCPが2018年の仮想通貨交換業から出発し、トークン化預金のプラットフォーム事業へとピボットしたこと。デジタル通貨フォーラムを通じて、銀行、事業会社、ベンダー、地方公共団体との研究会を重ねてきたこと。そして現在、SBI新生銀行とシンガポールのPartior(パルティオ)との提携によるトークン化預金での海外送金や、セキュリティトークンのDVP(Delivery Versus Payment)決済の二次・三次流通POCに取り組んでいること。

しかし、平子氏が最も力を込めたのは、次のメッセージでした。

「複数の銀行間でトークン化預金の決済ができるようにならなければ、B2Bの企業間決済も、P2Pの送金も、B2Cの決済も本格的には進みません。銀行間決済の実現は絶対に必要です。どのように進めていくのか、様々な関係部署と相談を進めています」

これは単なる企業戦略の説明ではありませんでした。日本のデジタル通貨エコシステム全体に対する、構造的な課題提起です。個々の銀行やフィンテック企業がそれぞれにPOCを重ねても、銀行間をつなぐインフラがなければ、デジタル通貨は「閉じた世界」のままです。


終章:「便利さ」の上に安住するか、「変革」に踏み出すか

平子氏のプレゼンテーションは、一見すると冷静なデータの羅列に見えます。しかし、その構成は精緻に計算されていました。

最初に「デジタルマネーとは何か」を整理し、次に「既存決済の限界」を示す。そしてステーブルコインの爆発的成長という「動かぬ数字」を見せた上で、各国の戦略を俯瞰する。その俯瞰図の中に、日本の「空白」が浮かび上がる。

欧州は2029年のロードマップを持っている。英国はPOCを完了させている。米国は民間主導で猛烈に走っている。中国はCBDCから民間開放へピボットしている。

日本は ―― 「様子見」。

この構造が示唆するメッセージは明快です。日本の金融インフラは確かに世界最高水準の便利さを誇る。しかし、先人たちが築いたその便利さの上に安住し続ければ、世界のデジタルマネー競争から取り残される。

「銀行間決済の実現」という平子氏の提言は、技術論ではありません。日本の金融システムが次の10年をどう生き抜くかという、戦略論そのものです。


セッション概要

  • イベント名: デジタル通貨カンファレンス 2026 — FUTURE OF DIGITAL MONEY
  • 日時: 2026年2月24日(火)12:45〜13:05
  • セッション: プレゼンテーション「デジタルマネーの世界的な潮流」
  • 登壇者: 平子 惠生(株式会社ディーカレットDCP 取締役 副社長執行役員 COO)
  • 主催: NADA NEWS / Japan Fintech Week 2026

本記事はJapan Fintech Week 2026「デジタル通貨カンファレンス」プレゼンテーションセッションの内容をもとに構成しています。

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