「欧州のクラウド市場の約70%は、非欧州系ハイパースケーラーによって支配されている」

GITEX AI EUROPEが発表したホワイトペーパー「Digital Sovereignty: Technology
Leadership Made in Europe」は、こうした厳しい現実認識から出発する。
欧州ICT市場はすでに1.02兆ユーロ規模に達しているが、その競争力の根幹──
計算資源・クラウド・開発標準・投資資本──において欧州は今なお外部依存が続いている。

白書は、この構造をどう変えるかを「4本柱」として体系的に整理した。

■ 第1の柱:算力──「新産業動力源」としての計算資源

生成AIの普及に伴い、データセンター需要はこれまでの予測を大きく超えるペースで
拡大している。欧州全体ではデータセンター容量が2030年までに70%増加する見込みだが、
AIワークロードはそれ以上の速度で増え続ける。

ドイツ単独でみれば、現在の容量を2030年末までに約3倍にする必要があり、
最大600億ユーロの新規投資が求められる。EUはすでに2,000億ユーロ規模の
「InvestAI」プログラムのもと、欧州5カ所にAIギガファクトリーを設置する計画を進めており、
10万個以上のGPUを大企業・スタートアップ・研究機関に開放する。

白書が強調するのは、この算力拡張がクリーンエネルギーとの統合なしには
持続不可能だという点だ。デジタル主権とエネルギー転換は不可分の課題とされている。

■ 第2の柱:主権クラウド──「依存」から「自律」へ

現在、欧州企業の約40%がアプリケーションの40%以上をクラウドで運用している。
この比率は2028年には91%へ跳ね上がると予測される。問題は、その市場の約70%を
非欧州系ハイパースケーラーが占有している点だ。

白書が求めるのは「sovereign-first」クラウドアーキテクチャへの転換──
データの法的管轄、運用上のコントロール、透明性・監査可能性を
欧州内で確保できる設計思想への移行だ。目指すのは孤立ではなく、
「開かれていながら自律的」なインフラ環境の構築とされている。

■ 第3の柱:オープンソース──ベンダー依存からの構造的脱却

クラウド主権の実現手段として、白書はオープンソース技術に大きな役割を期待する。
代表例がドイツ連邦政府が資金援助する「Sovereign Cloud Stack(SCS)」だ。
プラットフォーム間の自由な移行を可能にするオープン標準として機能し、
ベンダーロックインの解消と欧州発の共同イノベーションを促進する基盤となる。

■ 第4の柱:資本──「頭脳流出を止める」成長資金の壁

グローバルのベンチャーキャピタル投資のうち、EUテックエコシステムへの
流入はわずか約5%にとどまる。このギャップが、有望なスタートアップが
成長フェーズで米国や英国に移転する「頭脳流出」の主因となっている。

白書は官民共同投資による「成長段階ファイナンスの新エコシステム」構築を求めており、
ドイツのKfW DeepTech Future Fund(10億ユーロ)やEU主導の
IPCEIクラウド・半導体プロジェクト(30億ユーロ)など、
制度的な資金供給の充実が進んでいる。

■ 総括:「主権とは孤立ではなく、設計思想」

欧州のデジタル主権は、政策だけでも市場原理だけでも達成できない。
グローバルなステークホルダーとの協調と、明確な設計原則──
「オープン・バイ・デザイン、セキュア・バイ・デフォルト」──のもとでのみ実現できる。

この視点は日本やアジアのAI戦略にも直接的な示唆を持つ。
クラウド依存、算力不足、VC資本の地域集中は、欧州固有の課題ではないからだ。

▼ ホワイトペーパー全文(英語)
https://event.gitexeurope.com/GE26-whitepaper2026


LIF Techは GITEX AI EUROPE 2026(6/30〜7/1 ベルリン)の
公式メディアパートナーとして現地取材を行う。

▼ 参加登録(5/15まで最大40%オフ)
https://visit.gitexeurope.com/?utm_source=Lifrell&utm_medium=Referral&utm_campaign=ge26_visitor_registration

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