Alibabaの開発チームQwenが2026年8月に公開した「Qwen3.8」は、オープンウェイト(重みを公開する)モデルとして初めて、同社の最上位クラス「Max」を一般に公開したシリーズだ。手元のPCで動く27Bから、総パラメータ2.4兆のMaxまで、性格の違う4つのモデルがそろう。本記事では、Hugging Faceの公式モデルカードとQwen Cloudの料金ページをもとに、4モデルの違い、API料金、ベンチマーク、ローカルでの動かし方、商用利用のライセンス条件までを整理する。
2026年10月11日時点の情報:仕様・ベンチマークはHugging Faceの各モデルカード、料金はQwen Cloud(qwencloud.com)の各モデルページ、ライセンスは各リポジトリのLICENSEファイルで確認した。ベンチマークはいずれもQwen自身による測定値だ。
この記事でわかること
- Qwen3.8の4モデル(Max・27B・Flash・Flash-Next)の違いと選び方
- API料金(Maxは入力$2・出力$6、Flashは入力$0.15)
- Claude Fable 5・GPT-5.6 Solなどとの公式ベンチマーク比較
- 27Bを自分のPCで動かすのに必要なメモリとファイルサイズ
- 3種類あるライセンスの商用利用条件
- Qwen4との関係と、業務で使うときの注意点
1. Qwen3.8とは——「Max」がはじめてオープンになった世代
Qwen(通義千問)は、中国のAlibabaが開発する大規模言語モデルのシリーズだ。Qwen3.8について、Max版のモデルカードは「Qwen3.5・Qwen3.6シリーズが広く使われたことを受けて、Qwenのオープンモデルとして最も高性能な世代」と説明し、「Qwen3.8ではじめて、Maxクラスのモデルをオープンにした」と書いている。
Qwen3.5を土台にしたアーキテクチャで、コーディング、資料作成などの業務、調査、長時間かかるエージェント的なタスクの性能を伸ばした、というのが公式の位置づけだ。思考(推論)の深さを reasoning_effort で調整でき、過去の思考内容を preserve_thinking で引き継げる点も共通している。
2. 4つのモデルの違い
| モデル | 規模 | 重みの公開 | ライセンス | コンテキスト | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| Qwen3.8-Max(重みは Qwen3.8-2.4T-A95B) | 総2.4兆・アクティブ950億のMoE | あり | 独自(Qwen3.8-Max License) | 重みは標準26.2万(最大101万)。API版は100万 | 最上位。API版は画像・動画入力や「思考なし」モードにも対応 |
| Qwen3.8-27B | 270億の密(Dense)モデル | あり | Apache 2.0 | 標準26.2万(最大100万) | 画像・動画も理解するマルチモーダル。PCで動かせる |
| Qwen3.8-Flash-Next | 総1,250億・アクティブ60億のMoE(ほかにn-gram埋め込み510億) | あり | 独自(Qwen Community License 1.0) | 標準26.2万(最大100万) | Qwen4の土台になる新アーキテクチャの実験的プレビュー |
| Qwen3.8-Flash | —(Flash-Nextがベース) | なし(APIのみ) | — | 100万 | 低価格・高速。Flash-Nextを本番向けに仕上げたAPI版 |
名前が似ていて混乱しやすいが、「Max」と「Flash」はQwen Cloudで使うAPI版の名前で、Hugging Faceに公開された重みはそれぞれ「Qwen3.8-2.4T-A95B」「Qwen3.8-Flash-Next」という名前になっている。モデルカードによると、API版は重み版にない機能(100万トークンの標準コンテキスト、公式の組み込みツールなど)を備えている。
3. API料金——Maxは入力$2・出力$6
Qwen Cloudの各モデルページに掲載された、100万トークンあたりの料金だ(2026年10月11日確認)。
| モデル | 入力 | 出力 | キャッシュ読み込み(暗黙) | コンテキスト |
|---|---|---|---|---|
| Qwen3.8-Max | $2 | $6 | $0.25 | 100万 |
| Qwen3.8-27B | $0.5 | $3 | $0.1 | 100万 |
| Qwen3.8-Flash | $0.15 | $0.47 | $0.016 | 100万 |
いずれも1回の入力は最大99.1万トークン、出力は最大13.1万トークンまで。料金ページには、コンテキストの長さによる段階料金の記載はない。Maxは関数呼び出し、構造化出力、バッチ処理、Web検索、ファインチューニングにも対応している。
ほかの大型モデルと比べると
同じく2兆パラメータ級のオープンモデルであるKimi K3のAPI料金は、入力$3・出力$15だ(Moonshot公式、100万トークンあたり)。Qwen3.8-Maxは入力で3分の2、出力で5分の2の価格になる。大量の文書処理など、出力が多い用途ほど差が開く。
4. ベンチマーク——Qwen公表値で見る実力
Qwen3.8-Max:Fable 5には届かないが、一部で上回る
Max版のモデルカードに掲載された比較の一部だ。いずれもQwen自身の測定で、評価の条件(使ったツールなど)はモデルカードの注記に書かれている。
| ベンチマーク | Qwen3.8-Max | Claude Fable 5 | GPT-5.6 Sol | Claude Opus 4.8 | Qwen3.7-Max |
|---|---|---|---|---|---|
| Terminal Bench 2.1(ターミナル操作) | 86.6 | 84.6 | 88.8 | 84.6 | 74.5 |
| SWE-bench Pro(ソフトウェア開発) | 67.7 | 80.0 | 64.6 | 69.2 | 60.6 |
| FrontierSWE(ソフトウェア開発) | 73.5 | 88.8 | — | 70.0 | 40.7 |
| PaperBench(論文の再現) | 93.0 | 88.8 | 90.5 | 80.3 | 64.8 |
| WideSearch(広範囲の調査) | 81.9 | 81.2 | — | 72.9 | 75.2 |
| IFBench(指示に従う力) | 82.8 | 63.5 | 72.7 | 62.2 | 79.1 |
| GPQA Diamond(科学の知識・推論) | 92.6 | 92.6 | 94.1 | 92.0 | 92.4 |
| HLE(難問の総合知識) | 43.6 | 53.3 | 47.2 | 45.7 | 41.4 |
ソフトウェア開発(SWE-bench Pro、FrontierSWE)ではClaude Fable 5に差をつけられている一方、論文の再現(PaperBench)や指示への従いやすさ(IFBench)では首位に立つ。前世代のQwen3.7-Maxからは、ほぼすべての項目で大きく伸びた。
Qwen3.8-27B:前世代の27Bから大幅に向上
| ベンチマーク | Qwen3.8-27B | Qwen3.6-27B |
|---|---|---|
| Terminal Bench 2.1 | 73.0 | 63.4 |
| SWE-bench Pro | 61.7 | 53.5 |
| DeepSWE 1.1 | 42.2 | 13.3 |
| OSWorld-Verified(PC操作) | 84.3 | 63.9 |
| GPQA Diamond | 89.2 | 87.8 |
| OmniDocBench 1.5(文書の読み取り) | 91.1 | 89.4 |
27Bのモデルカードの比較から抜粋した。特にPC操作(OSWorld-Verified)やエージェント的な開発(DeepSWE)での伸びが大きい。
5. 自分のPCで動かすなら27B一択
4モデルのうち、一般的なPCで現実的に動かせるのは27Bだけだ。LM Studio公式のGGUF版(lmstudio-community)のファイルサイズは次のとおり。
| ファイル | サイズ | 目安のメモリ |
|---|---|---|
| Qwen3.8-27B Q4_K_M | 16.81GB | 24GB級のGPU(RTX 3090/4090など) |
| Qwen3.8-27B Q6_K | 22.43GB | 32GB以上 |
| Qwen3.8-27B Q8_0 | 29.05GB | 32GB以上 |
| 画像用のmmproj | 0.93GB | 本体と合わせて読み込む |
実際には会話の長さ(コンテキスト)の分だけ追加のメモリが要るので、ファイルサイズに数GBの余裕を見ておきたい。画像を読ませるには本体とは別のmmprojファイルが必要だ。Flash-NextのGGUFはQ4_K_Mでも約119GB(3分割)、Max(2.4兆パラメータ)は個人のPCで動かす規模ではない。
インストールからモデル選び、OpenAI互換APIとしての使い方までの手順は、ローカルLLMの始め方|LM StudioでQwen3.8/Gemma 4/GLM-5.3を動かすで詳しく解説している。
6. ライセンス——3種類あり、商用利用の条件が違う
| モデル | ライセンス | 商用利用の主な条件 |
|---|---|---|
| Qwen3.8-27B | Apache 2.0 | 改変・再配布・商用利用ともに自由(著作権表示などApache 2.0の条件に従う) |
| Qwen3.8-Max(2.4T-A95B) | Qwen3.8-Max License | 月間ユーザー1億人超または月の売上2,000万ドル超のサービスではモデル名の表示が必要。APIなどの「モデル提供サービス」やコーディング・事務作業向けの「AI作業アシスタント」事業で、グループの売上が直近12か月で5,000万ドルを超える場合は別途ライセンスが必要 |
| Qwen3.8-Flash-Next | Qwen Community License 1.0 | 表示義務はMaxと同じ。「モデル提供サービス」や「AI作業アシスタント」事業での商用利用は、売上規模にかかわらず別途ライセンスが必要 |
MaxとFlash-Nextのライセンスはどちらも、社内だけでの利用(出力や機能を第三者に提供しない使い方)には別途ライセンスの条件を適用しないと定めている。自社のサービスとして外部に提供するなら27B(Apache 2.0)が最も扱いやすく、Flash-Nextを組み込んだサービスを提供する場合は事前にQwenへの確認が必要になる。
7. Qwen4との関係
Flash-Nextのモデルカードは、このモデルを「Qwen4の土台になるアーキテクチャの実験的プレビュー」と説明している。注意機構を「Gated DeltaNet+Qwen Sparse Attention(QSA)」に組み替え、n-gram埋め込みでパラメータを効率よく増やす仕組みを入れた、と書かれている。
一方、2026年10月11日時点で、Hugging FaceのQwen公式アカウントにQwen4の重みは公開されていない。Qwen4について確実に言えるのは、Flash-Nextがその方向性を示す試作版だということまでだ。
8. 業務で使うときの注意点
APIを使う場合は入力データがAlibabaのサービスに送られる。一方、重みを自社の環境で動かせば、データを外部に出さずに済む。中国製AIを業務で使うときの論点(データの保存先、検閲の傾向、各国の規制)は中国製AIの危険性|DeepSeek・Kimi・GLMの業務利用リスクとデータの扱いで整理している。重みを自社で動かしても、学習段階で組み込まれた回答の偏りは残る点には注意したい。
よくある質問
Q. Qwen3.8は無料で使えますか?
A. 27B・Flash-Next・Max(2.4T-A95B)の重みはHugging Faceで無料で公開されており、自分の環境で動かすぶんには利用料はかからない。APIを使う場合はQwen Cloudの従量課金で、Flashなら入力100万トークンあたり$0.15から使える。
Q. Qwen3.8-27Bは日本語に対応していますか?
A. 日本語で指示を出して使うこと自体はできるが、27Bのモデルカードには日本語の性能を個別に示した数値は載っていない。業務に使う前に、自分の用途の日本語の文章で試しておきたい。
Q. Qwen3.8-MaxとQwen3.8-2.4T-A95Bは同じモデルですか?
A. 中身は同じ系統だが、機能が違う。Qwen3.8-MaxはQwen3.8-2.4T-A95BをもとにしたAPI版で、画像入力、「思考なし」モード、標準で100万トークンのコンテキスト、公式の組み込みツールなどが追加されている(モデルカードより)。
Q. Qwen3.6-27Bからは乗り換えるべきですか?
A. Qwenの公表値では、Qwen3.8-27BはSWE-bench Proで53.5→61.7、PC操作のOSWorld-Verifiedで63.9→84.3と大きく伸びている。ライセンスは同じApache 2.0で、GGUFのサイズも同程度(Q4_K_Mで16.81GB)なので、乗り換えの手間は小さい。
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